『黒神話:悟空』が示した特異点と、不確実性時代における日本の「勝ち筋」
本連載の第8回では、マクドナルドやGUの事例を挙げ、過去の名作(アーカイブIP)を現代にいかに「再解釈」し、新たな文脈を共創するかについて論じた。
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今回は視点を国内から国外、それも日本のアニメ・ゲーム産業にとって、巨大な市場であると同時に「競合」としての存在感も増す「中国」へと移したい。本来、このテーマは連載のより早い段階で取り上げる予定だった。しかし、昨今の情勢の変化――特に2025年後半から顕著になった日中関係の悪化――により、エンターテインメントを取り巻く環境は激変した。
この「地政学リスク」の高まりは、今回のテーマである「中国発IPの市場攻略の難しさ」という課題を浮き彫りにしている。かつてのような「爆買い」や「日本コンテンツ信仰」は過去のものとなり、代わりに台頭したのは、巨大な資本と技術力、そして自国文化への誇りを原動力とした強力な「中国国産IP」たちだ。
日本発IPがグローバルで戦う上で避けて通れない、中国市場のリアルと、日本の「勝ち筋」について、事例を交えて考えたい。
「量」から「質」へと転換した中国コンテンツ
まず、中国発IPの現在地を整理する。かつての「中国は下請け、あるいは模倣」という認識は過去のものとなりつつある。その象徴と言えるのが、アニプレックスとbilibili(ビリビリ)が共同製作し、2025年に公開されたアニメ『TO BE HERO X(2025)』のような、日中共同かつハイクオリティな作品の登場だ。
この背景には、中国政府による産業政策の抜本的な転換がある。ITmedia NEWSの記事(参考:『日本の“原作”連勝記録……中国「完全アニメ」の猛追 我々はどう向き合うべきか』)でも紹介した通り、かつて中国政府の助成金は「制作分数(量)」に応じて支払われていた。これが「粗製乱造」を招く一因となっていた側面は否めない。しかし近年、この制度は抜本的に見直されている。現在は、配信サイトでのランキング上位獲得や、海外でのアワード受賞といった「質」や「影響力」を評価対象とする仕組みへとシフトしたのだ。