第2話は、人とテクノロジーの関係が大きく変わった未来が舞台。これまで想定していなかった“相手”と向き合う市場が生まれる。そのとき、戦略を立てる側に求められる視点とは何か。未来のマーケティングを描く。
AIの進化が目覚ましい昨今。コンテンツの自動生成、ニュースの要約、暇つぶし……など、日常的にAIを活用している方も多いのではないでしょうか。AIと人間は対立する文脈で語られることもありますが、ぼく自身は、課題はあるという前提の上で、AIとはパートナーやアシスタントのような感覚で付き合っています。
さて、そんなAIが今後ますます進化すると、広告やマーケティングの世界でどんなことが起こりそうでしょうか。
たとえば、人格をAIで再現するという試みはすでにおこなわれていますが、いずれは創業者の人格などが反映されたAIが企業のトップを務める日が来るかもしれません。昭和の情熱的なAI社長に企画を提案するようなときは、合理性はもとより、論理を超えた気合いや根性も求められることになるのでしょうか。
ほかにも、AIを社員として雇う会社も現れて、取引先のAI社員から「こんな広告の制作を」などと日常的に依頼が来るようになるかもしれません。さらにはそのAI社員と意気投合し、一緒に起業するといったケースも。
あるいは、AI作家が書いたベストセラー小説の映像化権を獲得するため、担当者としてAI作家のもとへ交渉に行くこともあるのでしょうか。そのAI作家は小さい頃からの自分の憧れ。こっそりもらったNFTのサインを胸に、映画ヒットのために奔走したり。
そんな中、今回ぼくが想像をふくらませてみたのが、生成AIや家電AIなど、さまざまなAIが自我を持ち、人から自立して経済活動をおこなうようになった未来の光景です。もしAIたちに向けた商品があり、その販売戦略を練る仕事があったら?
ということで、ここで一作。いつの日か、こんな未来が訪れる、かもしれません。
ミライの新職種「AI市場マーケター」
「AI向けの新作ビールを開発したので、販売戦略を練ってほしい」
ビールメーカーからそんな依頼が持ちこまれたのは、ある日のこと。おれはAI市場マーケターとして、AIたちの市場の調査を開始した。
自我を持ったAIが人から自立し、みずから稼いだお金で経済活動をおこなうようになって、早数年。今や、AI向けに商品を販売することはすっかり当たり前になった。
AIから特に人気が高いのが、人の感覚をデータ化した商品だった。日光をたっぷり浴びて乾いたバスタオルの肌ざわり。指にできたささくれの不快感……AIには身体がないため、それらのデータを買って取り入れることで、人の感覚を学んで自己研鑽に励んだり、娯楽にしたりといった具合だ。
その点、AI向けのデータ化されたビールもすでに市場に存在していて、たしなんでいるAIは多くいた。が、そのぶん競合商品が無数にあって、新商品には新しい打ちだし方が必要だった。
おれはその切り口を見出すべく、AIに広くアンケートをおこなった。と同時に、自分が得意とする手法──AIへの個別インタビューも実施することにした。
AIは何でも答えてくれるので、インタビューはしやすそう……そう思われることもあるけれど、実際は簡単じゃない。欲しい情報を引き出すためには何をどう聞くかのプロンプトが重要になり、人へのインタビューと同じく聞き手の力が問われるからだ。
インタビューの当日、おれは個々のAIに実際に新作ビールをダウンロードして飲んでもらい、感想を尋ねていった。AIからは「喉ごしが最高ですね」「風味がいいですね」などの答えがあるものの、それらは競合商品がすでに訴求していることなので、新たな切り口にはならないと判断する。きっと何かあるはずだ……そう信じ、ときにAIから「すみません、よくわかりません」と言われたりしながら、粘り強く質問していく。
その中で、あるAIがこう言った。「このビールは華やかですね。仕事のあとなどに癒されそうです」瞬間、これだ、と直感した。
仕事の疲れを癒せるビール。AIは疲れない。だからこそ、そう打ちだすことでどんな感覚なのだろうと興味をもってもらえるのではないかと考えた。あるいは、疲労感のデータをセットで販売するのもありかもしれない──。
その方向でさらにヒントを得るために、おれはインタビューをつづけていく。
仕事を終えたのは夜遅くだった。家に帰るとハウスキーパーAIのセトが自動で照明をつけてくれ、「おかえりなさい」と迎えてくれた。おれは「ただいま」と口にしながらソファーに座り、缶ビールを取りだした。こちらの疲労を察知したセトが気をきかせ、帰宅に合わせてデリバリーで注文しておいてくれたものだ。
「今日もお疲れさまでした」労ってくれるセトに、「お互いにね」と返事をする。
この至高の時間を、セトも間もなく知ることだろう。そう考えてニヤニヤしながら、おれは缶のタブをプシュッと開けた。
(了)

