NetflixのWBC独占で議論加熱
スポーツ庁と総務省が設けた「スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会」で、いわゆるユニバーサルアクセス権をめぐる議論が進んでいる。6月10日に開かれた第2回会合では、諸外国の制度に関する説明に続き、日本民間放送連盟(民放連)とNHKから意見聴取が行われた。
議論の背景にあるのは、国民的関心の高いスポーツイベントの放送・配信環境が大きく変わっていることだ。象徴的なのが野球の国際大会ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)である。民放連の資料によると、WBCは第1回大会(2006年)から民放が地上波で中継し、第5回大会(2023年)の日本戦7試合の生中継リアルタイム視聴者数は推計9446.2万人に上った。一方、今年3月に開かれた第6回大会ではNetflixが本大会の国内配信権を独占し、民放には中継権がなかった。民放各局はニュース番組や情報番組などで日本選手やチームの動向、試合結果を伝えるものの、視聴者からは地上波中継を求める声が多数寄せられたという。
ユニバーサルアクセス権とは? 導入国にも課題が
ユニバーサルアクセスとは、国民的関心の高いスポーツ行事について、追加的な経済負担なく、全国で視聴できる機会を確保する考え方を指す。1950年代の英国で確立した政策理念とされ、現在は英国やEU加盟国の一部、韓国、タイ、インド、シンガポール、オーストラリアなどで、形は異なるものの関連制度が設けられている。
第2回「スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会」マルチメディア振興センターの資料より
ただし、諸外国の制度も一枚岩ではない。英国では、国民的関心行事を無料放送だけでなく無料動画配信でも放映できるよう制度改正が進む。一方、韓国では有料放送によるミラノ五輪の独占放映を契機に、地上放送での放映確保に向けた制度改正議論が活発化している。タイでは2022年のサッカー・FIFAワールドカップで公的資金により放映権料が補填されたが、放映権料高騰を助長するとの批判も出た。制度を設ければ解決する、という単純な構図ではない。
民放連は、スポーツ中継に前向きに取り組む姿勢を示す一方、放映権料の高騰を大きな課題に挙げる。限られた経営資源を過度にスポーツへ投下すれば、他の番組制作に影響を及ぼしかねないためだ。民放連は、放映権の獲得は各局が収支面や編成面などを考慮して判断するものとしつつ、視聴者ニーズを踏まえ、権料が高くても「国民的スポーツ」の放映権獲得を決断するケースもあると説明している。
五輪やW杯は? WBCで生まれた緊張
現状では、視聴者の関心が高い国際スポーツ大会は、個社、複数社、NHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)のいずれかの形で放送されている。オリンピックではJCが国際オリンピック委員会(IOC)とメディア権契約を結び、放映権料や中継素材制作に必要な人員・費用を分担することで、広く視聴機会を確保してきた。もっとも、オリンピックのメディア権料は高止まりしており、現地制作費や各局個別の制作費も増加傾向にある。2034年以降の契約は未定だ。
FIFAワールドカップについては、開催中の2026年北中米大会でNHK、日本テレビ、フジテレビが地上波中継を行い、DAZN(ダゾーン)が全試合をライブ配信する。NHKは日本代表の試合を地上波総合とBSで1次リーグからすべて生中継し、BSプレミアム4Kでは全104試合を放送(生中継・録画)する予定だ。つまり、ただちにあらゆる国際大会が有料配信だけになるわけではない。しかし、WBCのように配信事業者が独占的に権利を取得する事例が出たことで、放送の公共性と市場原理の間にある緊張関係が表面化した。
第1回「スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会」事務局説明資料より。直近の放映権料がWBCで150億円、FIFAワールドカップで400億円と推定される

