なぜ、あの一行は心を動かすのか。中高生に学んだ「コピーの書き方」―「宣伝会議賞」中高生部門特別企画:第2回

2016年に始まった「宣伝会議賞」の中高生部門は、今年度で11回目を迎えます。この大きな節目に、立ち上げの初回から10年間にわたり審査員長として賞の発展を牽引し、中高生たちの言葉に誰よりも熱く寄り添い続けてきたコピーライターの阿部広太郎氏が、今期をもってその役目を次期審査員長へとバトンタッチすることになりました。特別コラムの第2回は、具体的な「書き方」のヒント。前回振り返った10年間の名作コピーたちが、なぜ大人たちの心を激しく揺さぶったのか、その共通する「言葉の構造」をひもときます。

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阿部広太郎氏

電通
クリエイティブディレクター

広告クリエイティブの力を拡張しながら領域を超えて巻き込み、つながり、助け合う対話型クリエイティブを実践する。著書に『コピーライターじゃなくても知っておきたい心をつかむ超言葉術』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー·トゥエンティワン)、『あの日、選ばれなかった君へ新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)。

中高生に教わったコピーを書く3つのヒント

7月1日。第64回宣伝会議賞、中高生部門の応募がはじまります。前回は10年分の名作を振り返りました。今回はもう一歩踏み込んで、「なぜ、あの一行は心を動かすのか」。その構造を、技術としてお伝えしたいと思います。才能の話ではありません。知っていれば、誰でも近づける。私はそう信じています。

「感動」という言葉は、「感じて、動く」と書きます。おもしろいのは、動かそうと力むほど、読む人は動いてくれないこと。書いた本人が本気で感じた瞬間にだけ、不思議と相手の心も動く。これから話す3つのヒントは、技術であると同時に、「どう感じるか」の話でもあります。

ヒント① 主語を、自分に戻す

うまいことを言おうとすると、人はつい「世の中的に正しいこと」を書いてしまう。けれど強いコピーは、たいてい主語が「私」です。

「たまに眼鏡が1番可愛い」(第57回・グランプリ/ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアカンパニー)。「人との関わりは苦手。けど人の声は好きだ。」(第54回・ブロンズ/radiko)。

どちらも、誰かに教わった正解ではなく、自分の中から出てきた本音です。商品の説明からではなく、自分の心が動いた地点から書く。出発点を自分に戻すだけで、言葉は急に体温を持ちはじめます。

ヒント② 遠くの正論より、近くの具体

「環境を大切に」「家族はいいものだ」。正しいけれど、心は動きにくい。正論は、抽象的だから。心を動かすのは、いつだって具体のほうです。

「クリーニングじゃ明日の告白に間に合わない。」(第55回・グランプリ/菅公学生服)。制服・告白・締め切りという具体が、読む人の記憶を勝手に動かす。

「スカート2回折って、新聞2回開く。」(第54回・ゴールド/読売中高生新聞)。朝の所作という一点に、世代がまるごと立ち上がる。

「あ、ここ進研ゼミでやってないのに分かる!」(第61回・シルバー/ベネッセコーポレーション)も、教室の実感そのものです。

具体を書くと、読み手は自分の思い出を貸し出してくれる。中高生は、大人が持っていない「いまの具体」を、いくらでも持っているのです。

ヒント③ 当たり前を、半歩ずらす

「おもしろい」の語源は「面が白い」。目の前がぱっと照らされ、視界がひらける感覚を指したそうです。心を動かすコピーは、まさにこれ。当たり前を、半歩だけずらして見せてくれる。

「引越しの一番の荷物は、個人情報です。」(第61回・グランプリ/TOPPANエッジ)。引越し=家具、という常識を裏切る。

「AIは、私の志望校を笑わない。」(第62回・グランプリ/ベネッセコーポレーション)。最新技術を、弱さを預ける相手へ反転させる。

「プロポーズに使いたいお店じゃなくて、プロポーズしたあとに通いたいお店。」(第63回・グランプリ/コロワイド)。特別な一日を、その先の日常へずらす。一度ぜんぶ疑って、半歩ずらす。それだけで、見慣れた景色が新しく光りはじめます。

なぜ、中高生の言葉は大人を打つのか

技術の話をしてきましたが、最後にいちばん大事なことを。

中高生の言葉が大人の胸を打つ最大の理由は、書き手が「当事者」だからだと、私は思っています。大人は、本音をそのまま口にしない作法を、いつのまにか身につけてしまう。立場や損得を計算して、角の取れた言葉を選んでしまう。けれど中高生の言葉には、その計算がない。

「思いっきり泣いた。明日は任せた。」(第60回・グランプリ/粧美堂)。
「90点が悔しくなる。」(第60回・ゴールド/ベネッセコーポレーション)。

こういう一行は、大人が書こうとしても書けません。とうに忘れてしまった感情だからです。むきだしの本音は、読む人に「そうだ、自分にもこういう気持ちがあったんだ」と思い出させてくれる。つまり、中高生のコピーは、大人にとっての発見ではなく、再会なのだと思います。だからこんなにも、深いところを打つのでしょう。

書きはじめる人へ

主語を自分に戻す。近くの具体を書く。当たり前を半歩ずらす。この3つを携えて、まずは一行、書いてみてほしいのです。本音を書くのはちょっと怖い。けれど、いちばん力が生まれます。さあ、書きはじめてみましょう。

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