会社は、施策によってのみ動くものではありません。人が集まり、日々の意思決定と行動を積み重ねることで、組織としてのあり方が形づくられていきます。本連載では、企業における意思決定を、個々の判断にとどまらず、組織や文化として、そして企業価値にも影響を及ぼす経営の営みとして捉え、そのあり方を並木将仁氏(テロス・エロス・エトス)と考えます。
テロス・エロス・エトス 代表取締役
並木将仁氏
マッキンゼー、PwCを経て、インターブランド ジャパン代表取締役を約9年務める。現在はテロス・エロス・エトス創業者・代表として、人間的判断に寄り添う経営支援を実践。
人的的資本経営への関心が高まり、従業員のエンゲージメント向上といったさまざまな施策に取り組む企業が増えています。しかし、意欲や組織への帰属意識を高めるだけで、企業はより良い方向へ進むのでしょうか。
第1回は、日々の判断を支えるものとしての「倫理」の定義に着目します。
会社を動かす意思決定
人的資本経営やエンゲージメントについて考える前に、そもそも会社とは何かを捉え直す必要があります。
会社を単純化して考えれば、1つの目的や枠組みのもとに集まった「人の集合体」です。つまり、会社という集合体を捉えるのではなく、個人の集まりという捉え方が(当然)できます。
だからこそ会社が組織として機能するために、何かを決め、その決定に基づいて行動するということを、すなわち人々が何かを決め、行動する、という捉え直しに価値が出てきます。会社がより良い組織であるためには、組織としてより良く物事を決め、より良く行動するために、個人の意思決定にアプローチすることが欠かせません。
戦略が優れているか。組織にそれを実行する力があるか。会社とそこで働く個人との関係が機能しているか。企業の競争力には多くの要素がありますが、それらを実際の行動につなげる起点には、常に意思決定があります。
では、より良い意思決定は、どのように実現できるのでしょうか。問われるのは、「誰が決めるか」だけでなく、「どのような基準とプロセスで決めるか」です。その際に役立つのが、倫理という視点です。ただし、ここでいう倫理は、唯一の正解へ導く規範ではありません。倫理と聞くと「キリスト教的価値観」や「武士道的道徳」など正解がある概念と思うかもしれませんが、良い意思決定に、複数の視点からバランスよく、構造的にアプローチするための考え方を倫理と呼びます。
経済合理性の限界
企業には利益を生み、従業員や取引先に適切な対価を支払う責任があり、経済合理性は意思決定から切り離せません。一方で、経済的な成果を出していても、社会やステークホルダーに悪影響を及ぼす企業は認められにくくなっています。
