講演者:遠藤直紀(ビービット 代表取締役)
デジタルデバイスの多様化とともに、ユーザーのニーズやデジタルマーケティング手法も多様化の一途をたどる。ビービットの遠藤直紀氏は、「『顧客の時代』といわれる2010年代、徹底的にCustomer Obsession(顧客満足への執着)に取り組まなければ、ビジネスの成果は望めない」と力説する。
遠藤氏は、WEBビジネスに失敗する企業の共通点を、「マーケティングのトレンドを追いかけるだけで戦略性・連続性がなく、『とりあえずソーシャル』『トップページは変わった感が重要』など『施策ありき』で考えている」と指摘する。
一方、成功している企業はユーザーニーズを把握した上で戦略を練り、リリース後も改善・運用に余念がないという。こうした企業が実践しているのが「デジタルマーケティングの4段階モデル」だ。このモデルについて、遠藤氏は順を追って説明した。
まず、従来のインタビューによるユーザー理解には限界があるとし、「行動観察によるユーザー理解」の重要性を説いた。ビービットでは、行動を緻密に観察・検証するため、家庭のリビングや電車内を再現した部屋を用意しているという。ユーザーを理解できれば「WEBサイトの役割定義」も可能だ。
「コーポレートサイトやECサイトの役割は明確化しやすいが、ブランドサイトの目的を見失う企業は多い」と遠藤氏。たとえばユナイテッドアローズの場合、ブランドサイトの役割を「ファンのために、徹底的に情報提供する場」と再定義したところ、ECサイトや店舗への送客数が飛躍的に向上した。
さらに、策定したコンセプトを高品質なサービスとして具現化するためには、「プロトタイプによる施策改善」が必須だ。日本経済新聞のiPadアプリの制作では、開発中、ユーザーに何度もプロトタイプを試してもらい、改善・修正を重ねた。結果、ユーザー満足度は90%以上、継続利用の希望者は98%に上ったという。
遠藤氏はアップル社についても触れ、「アップルはプロトタイプによる行動観察を徹底的に繰り返している。プログラミングなしで複雑なプロトタイプを作れる今、日本企業も積極的に活用し、グローバルサービスに対抗すべきだ」と話した。
サービスのリリース後は、「データに基づくPDCA」による運用フェーズに入る。とは言え、すべての企業がハイレベルなデータアナリストや解析チームを抱える必要はないと遠藤氏は言う。「見るべきデータを絞り、施策の結果にフォーカスすれば、手軽に正しく分析できる。行動履歴はあえて細かく分析しない」(遠藤氏)。
そのため、従来のアクセス解析ツールと、施策ごとの結果がひと目でわかる効果測定ツールを併用する企業が増えている。遠藤氏は「今、東アジアでのデジタルビジネスが活発化している」と言う。企業は、より一層、世界を視野に入れたサービス開発を求められるだろう。
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