【前回】「名和晃平×後藤繁雄×阿部光史「企業とアートの関係を革新するプロデュース」【後編】」はこちら
鈴木健さんは日米を拠点としたニュースアプリ「SmartNews」(スマートニュース)の共同創設者。その著書『なめらかな社会とその敵』は、インターネット誕生後の複雑化する情報社会における人間や社会の生態学的進化の可能性を示し、「SmartNews」の急速な拡大、成功と共に注目を集めてきた。鈴木さんとtakramの田川欣哉さん、コルクの佐渡島庸平さんは、プログラミングとアート、コンテンツと新しい流通、ビジネス開発プロセスなど、大きなテーマでの関心が重なり、これまで対話を続けてきたという。今回は前編で鈴木さんの仕事と哲学を、後編では3人それぞれの「コンテンツの定義、つくり方」をめぐるトークをお届けする。
「SmartNews」を生んだ 研究者・鈴木健の思想
佐渡島:
今日は編集者として、2人からお話を引き出す役目をさせていただきます。急成長する「SmartNews」がどんな思想でつくられたのか、まず鈴木さんからお話しいただきます。
鈴木:
僕には大きく2つの活動があります。ひとつはアカデミックな場での研究活動、もうひとつは事業をつくる活動です。この2つが二重らせんのように僕の活動を推進させています。
2013年1月に出版した著書『なめらかな社会とその敵』は、学術書ながら幸い一般の方にも読んでいただき、1万2000部という異例の部数になりました。300年後の社会システムをインターネットを使ってデザインすることをテーマにした本です。“価値が伝播する” 新しい貨幣システムなど、13年分の研究と思考の履歴を集積しています。
大学院ではコンピューターを使って生命現象をつくる、人工生命の研究をしていました。その研究をしながら気づいたのは、社会システムもまた、生命システムの進化の一環であるということです。
例えば単細胞生物は、仕組みは単純ですが、食物を見つける認知システムを持ち、自分に必要なものを摂取して細胞を維持しています。こういう単細胞の行為は、われわれが社会の中で行っている私的所有の生物学的起源ではないか。人間は60兆個の細胞からなる多細胞体ですが、一つ一つの細胞は細胞膜によって、外から物質が入らないようにしたり、代謝して追い出したりしながら、中の細胞システムを維持している。つまり、そういう“膜”をもって、われわれは自分自身の構造を維持しているわけです。



