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人生は「かえって良かった」の連続だった
佐々木:私は2017年で63歳になります。3年前には、仲間の皆さんに還暦のお祝いの会も開いてもらいました。
私は子どものころに父親を亡くして苦労したり、テレビ局に就職したかったのにできなかったり、電通に入社してからもいろいろな逆境を経験してきました。だから自分では「逆境に強い」と思っています。
そこで自分の人生をひと言で表現すると「かえって良かった」ということなのかなと思っています。ですから今日は全体のテーマを「かえって良かった」にしてお話ししていきます。
自分の原点は、「中2のある日、おやじが急に死んだこと」です。おやじが亡くなったと突然聞いて、学校にも行けなくなるのではないか、路頭に迷うのではないかと、自分の人生に不安を感じて顔面蒼白になってガタガタ震えました。そして、そんな自分の顔を鏡で見て、なぜか笑ってしまったことも覚えています。苦労はしましたが、逆境に強くなりました。これが私の最初の「かえって良かった」という体験だったと思います。
さほど頭も良くなかったのですが、要領だけはよくて慶應義塾大学に入りました。就職はテレビが好きだったので、テレビ局に就職して好きな番組を作りたいということ以外は考えていませんでした。しかし当時は就職難の時代でアナウンサーの応募しかなく、この顔でアナウンサーはないだろうとあきらめました。そこでテレビの仕事もあるだろうし、楽しそうだなと思って電通に入社したわけです。
自分で言うのも何ですが、「自分は広告が好きだな、そして向いているな」と今でも思うことがあります。だから電通に入社できて「かえって良かった」と思っています。
電通に入った後も、さまざまな逆境を経験してきました。サントリーの缶コーヒー「ボス」を担当して間もなく25年がたちます。最初のきっかけは、電通の本命チームとは別に若手チームとしてプレゼンに参加させてもらったことでした。
ベテランのうまい人たちとは違う路線を出そうと、有名俳優さんが総理大臣役を演じボスを飲むという企画を出しました。ただリハーサルまで実施したところで、ボツになりました。普通ならば、「どうしてこんなことになったんだ!」と怒りたくなるのでしょうが、私はおやじが亡くなったときに逆境では頭を切り替えた方がいいことを学んでいたのです。
そこですぐに新しい企画を考えて生まれたのが、歌手の矢沢永吉さんの「ボスのむ。」というシリーズです。ボスが売れたことで、このCMもとても話題になりました。
人生って、こんなものかもしれません。うまくいかないことはたくさんありますが、意外と好転するのだなと思っています。
私は10数年前から、富士フイルムの「写ルンです」「お正月を写そう」の仕事をワンスカイの福里真一くんと一緒に担当させてもらっています。30数年前、樹木希林さんと岸本加世子さんが出演して、一世を風靡した伝説のCMを復活させたのです。
その希林さんが、日本アカデミー賞の授賞式で全身が「がん」であることを公表されました。これはショックなんてもんじゃありませんでした。希林さんとは親しくさせていただいていて、とても大切な存在の方ですから、「頼むよ!」という気持ちでいっぱいでした。
でも、そんなつらい時でも「良かった」と思えたこともあったんです。トヨタ自動車の「TOYOTOWN(トヨタウン)」のシリーズCMで、希林さんに失礼ながら一度お亡くなりになっていただき、木として生まれ変わってもらう企画を思いついたんです。希林さんに企画を説明したところ「いいでしょう」と快諾してくださり、実現しました。
さて、そろそろ希林さんに登場していただきたいと思います。本当に来ていただいて、すみません…。
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