【関連記事】Critical IoTがメディアの概念を変える — 「CES2020」レポート①(玉井博久)
動画ストリーミングサービスのQuibiが注目される理由
CES2020で間違いなく注目株のひとつになっているのが、動画ストリーミングサービスのQuibiです。基調講演は満席、いかに注目されているかが伺いしれます。QuibiはQuickとBiteの2つの単語を組み合わせてつくられたネーミングで、その名の通り、「短時間で楽しむ」ことを意味します。
楽しむ対象は、決して時間潰しのようなものではなく、ビッグストーリー。映画、ドラマ、ニュース、バラエティなど。しかもスティーブン・スピルバーグを始めとするハリウッドの大物監督が撮影し、豪華俳優を起用する10分以内の短尺動画です。彼らのビジネスとは、そうした大量のコンテンツを提供していくサブスクリプションサービスになります。
動画のストリーミングサービスはNetflixを始め、すでに多数存在する中、彼らが注目を集める理由とは、これからのストーリーテリングのあり方を一変させてしまうだろう存在だからです。
コンテンツのインターフェイスは映画からTV、インターネット、そしてモバイルへと移りかわってきました。スティーブ・ジョブズがiPhoneを世に出して、モバイルでの動画体験が始まってから。すでに10年ほどが経過しましたが、Quibiは「モバイルでのコンテンツ体験は真の意味ではまだ実現されていない」と主張します。
これまでのモバイルコンテンツ体験は、テレビが誕生した時にどうしたら良いか分からず、アナウンサーがただカメラの前に立って文章を読んでいる姿を流していた時と同じようなものだったというのです。
セッション内では、スマホが登場した当時のモバイルでの動画視聴時間は6分程度だったのに比べて、2019年にはその視聴時間は80分にまで増えているとの話もありました。さらにT-モバイルによると、視聴される動画コンテンツの中でも、最も視聴されているのが短尺動画とのこと。
どのように長いストーリーをすばやく体験してもらうことができるか、モーメントとモーメントの間の限られた時間で素晴らしいコンテンツに触れてもらうができるようにするためにはどうすればよいか。またスマホで検索、地図閲覧といったことに慣れたユーザにどの様なモバイル動画体験を提供すべきか、といったことを考える必要が生まれています。こうした体験を根本的に見直して、モバイルエンタメプラットフォームを目指しているのが彼ら、Quibiなのです。
彼らが、名だたる俳優や監督とともにつくり上げるのがクイックバイトコンテンツです。このコンテンツはスマホを縦に横にと、自由に回しながらもフルスクリーンでスムーズにモバイルビューを体験できます。
また縦向きと横向きにした時にストーリーに変化が出る様な仕組みもあり、例えば2人のキャラクターの視点で、縦にするとある1人の、横にするともう1人の視点でストーリーを閲覧できます。その他にも横にすると普段見る映画の画角ですが、縦にすると主人公の目線でストーリーを視聴できるといった仕掛けもあります。
広告主も注目のQuibi、すでに1億5000万ドルの広告を集稿
こうした取り組みに対して「Quibiはゲームチェンジをしている」とGoogleは認めており、コンテンツ制作において協業を始めています。また広告主も着目し始めており、すでに1億5000万ドルもの広告出稿が集まっているとのことです。ペプシはその一社で、ストーリーを今までにない方法で届けられると感じたと述べ、Quibiのコンテンツ制作を活用した動画を制作しています。
Quibiのファウンダーは、ディズニーのアニメ部門を立て直した後に、ドリームワークスのCEOを務めた人物。そしてファウンダーがQuibiのCEOとして誘いをかけたのが、ebayを急成長させHPのCEOを務めていた人物でした。この2人が、この数年の、人々がどんな風にストーリーを消費していくのかのカギを握っているのかもしれません。
玉井博久
広告会社側(リクルートとTUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用したマーケティングイノベーションをプロデュースし、カンヌライオンズなど受賞多数。現在グローバルブランドPockyの全世界の広告を統括し、売上に貢献。またシンガポールに駐在し、ASEANのECビジネスを立ち上げる。著書『宣伝担当者バイブル(宣伝会議発刊)』は若手マーケター・宣伝部員・広告会社社員に好評。
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