ビジョンを達成するためのインナーブランディング戦略
「Makuake」はプロジェクト実行者が開発背景などのストーリーとともに発表する新商品や新サービスを、サポーターが応援の気持ちを込めて先行購入することができる「アタラシイものや体験の応援購入サービス」だ。ガジェットやフードのほかに伝統行事や文化財、旅行、体験など幅広いジャンルで活用されている。クラウドファンディングのシステムを採用こそしているが、“クラウドファンディング”という表現を徹底して避けているのは、「Makuake」を運営するマクアケが重要視しているビジョンに理由がある。
マクアケが掲げているビジョンは「生まれるべきものが生まれ広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」というものだ。同社のカルチャー推進チーム・カルチャープロデューサーの能城綾香氏は言う。「さまざまな事情や経済的合理性などによって素晴らしいアイデアがお蔵入りしてしまったり、量産がかなわなかったり、これまであったものが消失してしまったりすることがあります。『Makuake』が介在し、それらが生まれ・広がり・残ることで、ビジョンに掲げた世界を実現していくという考え方です」。「Makuake」が新規事業などに挑む実行者の思いや物語を表現するための媒介役となり、それを応援する人(=サポーター)をつなげる。そうすることで新たな価値を生み出し、会社のビジョンを実現しようというのだ。
「世界をつなぎ、アタラシイを創る」というミッション、そしてバリューにあたる「Makuake Standard」に「挑戦を応援しよう。最速にこだわろう。崇高をめざそう。」を制定している同社。「『Makuake Standard』を体現してミッションを遂行することでビジョンを実現し、社会に価値を提供していきます」と能城氏。そして社内にこの考え方を浸透させるために必要不可欠なのがインナーブランディング施策だ。「MVVを掲げるだけではなく、経営陣や管理職がそれに一致した言動をすることが肝要」とし、「社員はその様子を見ていますし、実行者やサポーターであるお客さまは社員を見ています。この言動一致が甘ければ、MVVが逆効果になることもありえます」と言い切る。
バックオフィスメンバーもビジョンを“自分ごと”化
「ビジョンを中心に据えた会社づくりを行っています。全てにおいて『ビジョンを実現 するためにどうあるべきか』を第一に考えています」と能城氏は言う。そのために、マクアケでは日々さまざまなインナーブランディング施策が打ち出されている。例えば、テレビ会議システムを使った映像番組「Makuake Challengers Talk」では、プロジェクト実行者が来社して担当キュレーターと行うトークセッションを配信している。プロジェクト掲載の背景や挑戦などを振り返る生の声を通し、実行者と接点をもつことが少ないバックオフィスのメンバーが実行者についての解像度を上げるために有効な施策となっているという。
社外での取り組みも重要視している。多くの実行者、サポーターが集う「Makuakeミライマルシェ」では、社員の多くが会場での接客に参加。また、実行者の生産現場で行われる「Makuake Factory Tour研修」にはバックオフィスメンバーやエンジニアも参加するという。実行者との接点を持たずとも「実行者に対してなにができるのか」をリアルに感じ、考えることができる機会を設けることは「非常に重要」だと能城氏は語る。
「応援してくれる人の存在はビジネスにとって追い風」
ビジョン達成のためのインナーブランディング施策を多く打ち出してきた同社。その成果について能城氏は「プロダクトや運用に思想が反映される」「共感を軸にした協業の実現」「自社を応援してくれる人が増える」の3点を挙げる。特にビジョンを発信するようになってからは、共感を軸にした他社との協業が増えたという。最後に「掲げた旗に向かって挑戦することで、応援してくれる人が増えるのは、『Makuake』を使ってくださる実行者にも言えること。応援してくれる人の存在はビジネスにとって追い風となるものです。MVVを浸透させ、社内外に発信することで応援や共感が増えて協業につながり、やがてビジョンの実現にもつながっていくと考えています」と能城氏は言葉に力を込めていた。
エンゲージメント向上を求めて インターナルブランディングの役割
続いて登壇したのは株式会社産業編集センター・はたらくよろこび研究所の相山大輔氏だ。同社はインターナル・コミュニケーションに特化した制作・コンサルティング会社で、300社以上のクライアントをサポートしている。大手企業の社内報、社内イベント、社内表彰をはじめ、インターナルブランディングそのものをサポートするケースが増えているという。相山氏によると、コロナ禍で人々の働き方が変わったことで、社内のコミュニケーション変容に注目が集まっているそうだ。
社団法人日本経営協会「ビジネス・コミュニケーション実態調報告書」では社内広報について「組織活性化のために不可欠」と回答した企業が約9割、「業績向上のために不可欠」と回答した企業も約4割にのぼることがわかっている。
同社はクライアント166社を対象に独自調査を実施し「インターナル・コミュニケーションを重視するようになった理由」を集計している。その結果「エンゲージメント向上」と回答した企業が7割で、相山氏は「今の問い合わせでは、ほとんどの方が『エンゲージメント』という言葉を使う。課題感を感じるし、危惧しているのでは」と分析する。
「多くの企業にとって、今がコミュニケーションのターニングポイントに差しかかっていることが感じとれる。価値観が変わり、企業とステークホルダーの関係も大きく変わっている。コミュニケーションを見直さないといけない時期なのではないか。」と相山氏は語る。
社内ブランドがシームレスに社外につながる構造をつくる
これからのインターナル・コミュニケーションはどうあるべきなのか。相山氏は会社と従業員の関係性が「拡大志向から共感志向」「利益優先から目的(パーパス)優先」「求心力が利害関係から志・信念」にそれぞれ転換していることなどを理由に挙げ、コミュニケーションを本質的に転換する必要があると主張する。変わりゆく価値観の中で双方が求める関係性を明らかにし、合致させることが高いエンゲージメントにつながるというのが相山氏の考えだ。そして、そのためにもMVVの社内への浸透が求められているのだ。
最近では社内報とオウンドメディアが融合するケースが増加していると相山氏は言う。その象徴的な存在が、トヨタ自動車がリリースしている「トヨタイムズ」だ。社内(=インターナル)な取り組みなどを社外(=エクスターナル)に発信し、“裏表のない”コミュニケーションを実現しようというものだ。ここでは「新たなインターナル・コミュニケーションへの挑戦」という言葉が明文化され、会社のブランドを強力な発信力でアピールすることに成功している。
相山氏はトヨタイムズの事例について「裏表がないところが狙い」と分析している。会社が存在する意義(目的/パーパス)に基づいて策定したMVVやブランド定義を、経営計画や人事制度に浸透させることで、従業員の選択・判断・行動に反映されるように設計されている。その結果、製品やサービスに会社のエッセンスがアウトプットされ、グループ会社や従業員の家族、そして顧客…といったように、外部・ステークホルダーにビジョンが波及するという。しかし、従業員や製品、サービスが理念を体現できていないと、評価が落ちることにつながりかねない。「まずは従業員のブランディングを浸透させてからアウトプットするのが理想です」と相山氏は語る。
社内にブランディングを導入するための基本的なフレームワークを「認知(MVV)」→「(背景を含めた)理解」→「納得」→「実践」→「定着」と紹介した相山氏だが、これはあくまでも一例に過ぎない。「会社ごとに個性も魅力も違うので、教科書通りの対応をするのではなく、要素をしっかりと洗い出して戦略を設計することが大事です」という相山氏。エンゲージメントの源は各社それぞれであり、インターナルブランディングの定型は存在しない。エンゲージメントの低下に悩んでいる企業の場合、まずは「社内にMVVを浸透させる」ためのコミュニケーションを見直してみる必要がありそうだ。
お問い合わせ
株式会社産業編集センター
URL:https://www.shc.co.jp/
EMAIL:yuusuke_nakamura@shc.jp
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