三井住友海上火災保険は、アジアの重点地域で保険の売上を伸ばすためのマーケティング戦略を立てるにあたり、書籍『君は戦略を立てることができるか』のフレームワークを取り入れた。組織の持つ資源を整理し、目的を達成するための資源配分を組み立てるアプローチで、国内外のスタッフとの「共通言語」が得られ、資源配分の無駄が減らせるなどの手応えが得られているという。
三井住友海上火災でそのマーケティング戦略づくりに携わり、その後、同社の持株会社であるMS&ADインシュアランス グループ ホールディングスでマーケティング業務を担う末松知紗氏と守屋元気氏、三井住友海上火災の片岡伸浩氏に加え、著者の音部大輔氏を交えてその取り組みについて聞いた。
戦略を模索する中で、本書に出合った
━━書籍『君は戦略を立てることができるか』の戦略メソッドを取り入れることになった経緯についてお聞かせください。
片岡:三井住友海上で初めてのマーケティング組織として、2023年4月にマーケティング部が立ち上がりました。当時のメンバーには異業種出身で中途採用の社員も多かったため、まずは部内の「共通言語」を決めて共有する必要があると感じました。それにはパーセプションフロー・モデルのフレームワークがフィットするのではないかと思っていました。
そう思っていた矢先、末松からマーケティングについての相談を受ける機会があったので、まずは音部さんの著書『The Art of Marketing マーケティングの技法 パーセプションフロー・モデル全解説』を紹介しました。
末松:書籍を紹介されたのはまさに施策について悩んでいたときでした。守屋と私はグローバルマーケティング担当としてアジア地域のマーケティング支援に携わっていたのですが、目標設定や戦略策定について模索していました。
MS&ADホールディングス 広報部 CXデザインチーム 課長代理 末松知紗氏
そんな中で、音部さんによる新刊『君は戦略を立てることができるか』が発売されたと知り、2024年の大みそかに購入して、紅白そっちのけで読みました。書籍には私が組織で潜在的に感じていた課題や悩みが、まさに言語化されていると感じました。そのことをリーダーである守屋に伝え、まずは組織全体ではなく、私たちを含め5人が所属するユニットと呼ぶ小規模な組織で実証してみようということになり、実践することになりました。
資源の可視化で得られた納得感
━━本書の中で、特にどういった点が組織に生きると感じましたか。
末松:戦略策定には様々な概念やフレームワークがありますが、逆にありすぎて何から手をつければいいのか分かりませんでした。本書は戦略を「目的達成のための資源利用の指針」と定義づけ、目的に対して投下可能な資源量が優勢であるか、つまり「資源優勢」となる状況を見つけることを提唱しています。この考え方なら実践できるかもしれないと思ったのです。
守屋に伝えると、すぐに本を読んでプロセスをブレイクダウンしてくれ、まずは自分たちの資源を理解するために、「資源の探索」に取り掛かることにしました。ユニットには利益目標が金額で設定されていますが、それを保険の契約数で算出すると、個人契約なら何件、法人契約なら何件の獲得が必要である、と割り出すことができます。それを1年半で達成させることが求められていました。与えられた予算の中で何であれば達成できるのかを考え、それをより実現しやすいイメージに解釈する「目的の再解釈」を行い、社内にある資源を探索しました。
資源優勢が確立できそうな部分として着目したのは、人財です。私たちのユニットは、三井住友海上では珍しく、中途入社が多いことが特徴です。それぞれのマーケティングスキルと損保に対する知識量を、私たちで作成したスキルリストに沿ってブレイクダウンしてユニットの強みと弱みを可視化し、資源優勢の共通理解をつくりました。加えて、パートナー企業などの外部資源や、私たちが支援しているアジア地域の現地法人についても、資源や課題を洗い出し、利益目標を達成するために何をしなければならないのか、何が資源優勢なのかを整理しました。
最大の資源である「人財」に着目し、それぞれのスキルを可視化した
守屋:私自身も本書を読んで、まさに実践に活かせる内容だと感じました。どのようなプロセスで進めていくのかという認識をユニットで共有して進めると、前に進むスピードは非常に速いですし、それを末松のような若手の社員が現場からボトムアップで推進するというのはあるべき姿とも感じました。書籍に書かれている戦略策定のステップでも「自分ゴト化」(ステップ6)が重要であると説かれていますしね。
MS&ADホールディングス 広報部 CXデザインチーム 課長代理 守屋元気 氏
音部:末松さんのような強力なリーダーシップが発生すると、このフレームワークは機能し始めるんですよね。お話を聞いていて、組織を動かす上で強力なリーダーシップというのは、実に重要な側面だと改めて確認できました。
また、ユニットメンバーの持つスキルや専門領域の共通言語化をなされたことも、それ自体が強力な資源として機能するのだなと思いました。資源整理というのは、そもそも「棚」がなければできないのですが、棚としてスキルリストを迅速に用意したのがすばらしいと思います。リーダーシップと棚の整理、これが成否を分けますよね。
末松:資源の可視化によって、「この進め方ならできる」と納得感をもって思えるようになったことが非常に大きかったです。そこから、どの国で、どのチャネルで、どのターゲットに向けた戦略を立てるのかを絞り込んでいきました。


