テクノロジーや社会の変化によって、仕事のかたちはこれから大きく変わっていくかもしれない。「空想ミライ仕事図鑑」は、まだ存在しないがいずれ生まれるかもしれない未来の職業を、ショートショートのかたちで描く連載企画だ。少し先の未来を舞台に、新しい役割を担う主人公たちの葛藤や挑戦を通して、仕事の本質を考える。空想からはじまる職業研究を、気軽に楽しんでほしい。前編はショートショート作家の田丸雅智氏の思考実験から始まり、後編はそこから物語を紡ぐ構成でお届けする。
第1話は、もし、普段食べる肉がまったく別の役割を持ちはじめたら──。社会の当たり前が少し変わった未来で、新たな価値を生み出す仕事が誕生する。日常の延長線上にある違和感から、仕事の可能性を描いていく。
テレビに新聞、ラジオにWeb……広告を掲載できる媒体にはいろいろなものが存在します。昨今はドローンを駆使して空に模様を描けるようにもなってきていますので、今後は空の媒体化が進んでいったり、さらに先の未来では、もっといろいろなものが媒体になっていったりするかもしれません。
たとえば、宇宙開発が進んでいくと、地球が媒体になる可能性も十分にありそうです。宇宙に滞在している人や宇宙行きのロケットに乗っている人に向け、ナスカの地上絵さながらに巨大な広告が描かれたり。あるいは、高層ビルの窓明かりで描かれる文字のように、街の灯りを活用して地上に文字が描かれたり。
ほかにも、最近は液体に絵や文字を描ける技術も登場してきていますので、いずれは水も媒体になるかもしれません。水族館でイルカショーがはじまる前に、プールの中に広告が現れたり。海の中のダイビングスポットに、景観に配慮しつつ広告が現れたり。それらの広告収入は、施設を運営したり海を守ったりするために使われるでしょうか。
バイオテクノロジーが進歩すれば、花びらなども媒体になるかもしれません。ブランドカラーに美しく染まった花たちが、咲いて散って、また咲いて。花から漂ってくる香りも、ブランド独自の「ブランド・フレグランス」として親しまれたり。
そんな中、今回ぼくが想像をふくらませてみたのが、培養肉が簡単に作れるようになった未来の光景です。もし食肉が媒体となり、そこに掲載される広告をデザインする仕事があったら?
ということで、ここで一作。いつの日か、こんな未来が訪れる、かもしれません。
ミライの新職種「食肉広告デザイナー」
──黒毛和牛への出稿が決まった。それも、A5ランクだ。
そんな話を上司から聞いたとき、私は大きな仕事が決まってよかったなぁと他人事のようにぼんやり思う程度だった。でも、その広告主が、うちの会社が専属で担当しているあるファッション系のハイブランドで、デザインを担当するのが私だと聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。そのブランドは昔から大好きで、日頃から服やバッグを身につけてパワーをもらっていたからだ。
──先方は食肉広告じたいが初めてだが、期待は大きい。頼んだぞ。
食肉広告。それはポスターのように培養肉の表面にビジュアルやコピーやロゴを掲載する形の広告だ。私はその制作を手掛ける食肉広告デザイナーで、牛や豚や鶏などの肉の性質や、焼いたあとの美しさなども考慮しながら、企業や商品の広告をデザインするのを仕事としている。
そうしてデザインされた肉は、3Dプリンターで天然の肉と変わらない品質で出力されて、スーパーなどの店頭に並べられる。生活者側は、広告のおかげでリーズナブルに肉を買える。広告主側は、生活者がよく目にする場所に広告を出せ、胃袋をつかむところからファン化を狙える。双方の需要がマッチして、今では肉の売り場に無地の肉は売っていないほどになっている。
上司から任されて以来、私は大きな喜びとプレッシャーを感じながら仕事に励んだ。私がすべきは、ブランドの世界観を伝えるための広告を、ステーキ形の肉の表面に肉の赤とサシの白でつくりあげることだった。
試行錯誤は、毎日深夜にまで及んだ。そうして完成したのが、荒廃したビル群の中に一人の女性が凛とたたずんでいる構図の広告で、私は緊張しながら広告主にプレゼンした。結果、無事に気に入っていただけて、よしっ、と内心で拳をにぎりしめたのだった。
都内の高級スーパーに足を運んだのは、それからしばらくたってのこと。店頭には自分の手掛けた肉が並んでいて、改めて仕事をまっとうできたことに誇りと安堵が芽生えてくる。
私は肉のひとつを買って帰ると、さっそく家で焼いてみた。口に運ぶと悶絶するほどのおいしさで、日々の疲れが吹き飛んだ。みなぎるものも強く感じて、私はこう確信する。大好きなこのブランドは、これからもパワーを与えつづけてくれるだろうなと。
これまで同様、素敵なアイテムで体の外から。そして今後は内からも。
(了)


