広告クリエイターを目指す人や駆け出しのコピーライターにとっては、コピー年鑑は憧れの存在であり、教材であり、自らを奮い立たせてくれる存在でもあります。TCC会員の皆さんは、コピー年鑑とどう向き合ってきたのか。どう活用しているのか。今回は、2020年度のTCC新人賞を受賞した山際良子さんです。
2.5kg。コピー年鑑の平均的な重さです。その年ごとのページ数や装丁の違いによって軽めの年がありつつ、3kg超えの年も珍しくないくらいです。
今から20年も昔。リクルートの名古屋支社にアルバイトで拾ってもらい、求人広告をつくっていた私。三重県の自宅へは、名古屋駅から近鉄急行でまるまる1時間。その永遠とも思える道中のお供として、また、終電で寝過ごして絶望しないための守り神として、備品の歴代コピー年鑑を借りて帰るのが習慣となっていました。特に金曜は週末用に2冊借り。当然、他の荷物もあるわけで、まず地下鉄に乗り名古屋駅までにトートバッグの紐がちぎれるのが先か自分の肩が外れるのが先か。夜の近鉄はあまり混まないものの、 座れなかった日は、体幹と意地で支える立ち読みスタイル。つ、辛い、でも。肩関節や二の腕を犠牲にするのも厭わないほどの引力。普段、触れている求人広告とは異世界の魅力。よく登場する“電通”って何だ?でんつうって読むのかな?本気でこのレベルの世間知らずでした。
重さには多くの場合、サイズも伴います。ある日のこと。2人掛けボックス席の窓側を確保し、悠々とコピー年鑑を眺めていました。隣に座った30歳前後らしきスーツ姿の男性がチラチラとこちらを気にしている様子です。相手の陣地には侵入しないよう注意していたのですがさすがに邪魔で怒られるかと思い、半分ほど閉じて隙間から覗いていたところ、いよいよ男性が口を開いたのです。やばい、肘が当たったか!?
「それは…デザインの本ですか?」
「…へ?あ、こ、これは広告の本です」
以降、微妙に男性にも見えるような角度とスピードでページを捲る謎時間が流れました。そりゃ、電車内に異様な存在感の本を持ち込んでいたら誰だって興味が湧きます。文庫本とかにしときなさいよと。
高校卒業後、引きこもりニート生活を送り、働くのは怖いけど焦燥感に苛まれ、広告にもコピーにも夢や希望は全くないが未経験OKだったからとりあえず応募しただけ。社会と現実を避けていた甘々すぎる人間がコピーライターとしてやっていくこと、その覚悟を身に問うべく計算されたコピー年鑑の重さなのかもしれません(そんなわけない)。もはや初心を忘れ、時代も時代だし電子版を出してくれたら楽だけどな。若い人も手にしやすいよな。なんてうっかり言ってしまいそうな一方、コピー年鑑はいつまでも激重であれ!な私もまだいるのです。
