生成AIを前提としたこれからの時代、コミュニケーションプラニングはどう変わるのか。広告主とプラットフォーマー、そして広告会社との新たな共創のあり方を、グループ各社の5人に聞いた。
※記載の所属・肩書きは取材時点のもの
「生の声」を戦略に Xデータ起点の生活者洞察
スマートフォンの利用時間が伸長する中で、生活者のインサイトを捉えるにあたりSNS上の「生の声」の重要性は高まっている。しかし、膨大な発話データを前に、多くの企業が有効な活用法を見出せずにいるのが現状だ。
博報堂ストラテジックプラニング局の奥村伸也氏は、その課題意識から、Xデータを活用する新たなマーケティングメソッド開発に博報堂が着手した背景を語る。
「SNSで発信する人は年々増えていますが、その『生の声』はこれまでマーケティングデータとして十分に活用されてきませんでした。従来の定量・定性調査といったアスキングベースの手法だけでは捉えきれない、クイックかつ本音に近いインサイト発掘を目指して、グループ全体でSNSプラットフォームデータを活用する取り組みが開始されました」
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター 奥村伸也 氏
開発されたのは、Xの膨大なテキストデータを文脈が近いグループに自動でクラスタリングし、可視化する独自のアルゴリズムだ。データマーケティング・プログラミング領域を担う博報堂ストラテジックプラニング局の高橋良輔氏は、技術的進化を次のように解説する。
「戦略策定において、生活者の言葉を引き出すテキストデータは非常に重要です。しかし以前は、一つひとつの発話を目視する『ソーシャルリスニング』止まりでした。現在では技術の進化により、テキストデータを数値として扱えるようになり、クラスタリングなどの統計手法が使えるようになりました。発話データから一気通貫でマーケティング戦略に落とし込める時代になったのです」
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー 高橋良輔 氏
例えば「麻辣湯(マーラータン)」というテーマで一般生活者の発話データを分析すると、約40の文脈に自動でクラスタリングされる。さらに裏側でAIが連携し、上位のポストから発話の傾向を分析。「ハマっていく過程を語りたいビギナー層」「辛さと痺れを探求するフードラバー層」「カスタマイズ好きの外食中心層」などと各クラスタのネーミングや概要を自動生成されるのだ。
生活者のSNS発話について、どんな文脈が存在するか、文脈ごとにどんな界隈の人が存在するか、そのテーマのバズ構造などがAI分析によって可視化される
「さらに『ネットワーク分析』を用いることで、Xのリポストや引用ポストの構造を紐解くことができます。麻辣湯の場合、バズの中心には外食チェーンの公式アカウントがありますが、その周囲には『ラーメン好きアカウント』や『サブカル系アカウント』など、様々な『界隈』が横断的に連携して発話を支えていることが定量的に可視化できます。これまでは『バズの山』の大きさを見るだけでしたが、これからはバズの構造そのものを明らかにし、コントロールとPDCAを回すことが可能になると考えています」(奥村氏)
発話分析の解像度をさらに上げる「ETF」とは
博報堂がマクロな視点で市場の発話構造を可視化する一方、デジタル領域でのプロダクション機能を持つ博報堂アイ・スタジオは、よりミクロな「個」の深掘りに挑んでいる。それが、独自の企画生成ツール「ETF(エンゲージメント・トピック・ファインダー)」だ。
同社の石割竜輝氏が、ETF開発の背景を語る。
「特定のキーワード周辺の発話だけを分析していると、そこから少し離れた場所にある『新しい火種』の発見が困難になるケースがあります。例えば、『麻辣湯のカスタマイズ性が好き』というユーザーが、実は『流行しているマンガに関連するミームで頻繁にコミュニケーションをしている』といった元のキーワードからまったく別のSNS行動様式にたどり着けないこともあります。そこで、分析から得た生活者のプロファイルをさらに深掘りし、『この人たちは日頃、どんなコミュニケーションに触れ、何を求めているのか』を逆算して企画のコアアイデアを抽出することを可能にするのがETFの役割です」
博報堂アイ・スタジオ 第1ビジネスディビジョン ソーシャルマーケティングチーム atmosphereチーフプロデューサー 石割竜輝 氏
ETFの核となるのが、Xに組み込まれている生成AI「Grok」の活用だ。特定の界隈に存在する人物像をデータベースから生成し、そのペルソナがネット上でどのようなカルチャーに親しんでいるかをGrokで分析する。博報堂アイ・スタジオの佐藤知裕氏がその仕組みを補足する。
「博報堂の分析で抽出された『界隈』の構造をベースに、そこに存在する人物像(ペルソナ)をつくります。その人物像をGrokにインプットし、『この人物はどんなミームやネットカルチャーに親しんでいるか』『どんなコミュニケーションフォーマットを好むか』を解析する。これにより、ワードだけに依存しないその界隈の人物に深く刺さるクリエイティブを高精度で生み出すことができます」
博報堂アイ・スタジオ プラットフォーム戦略センター グロースデザインユニット ゼネラルマネージャー/グロースデザイナー 佐藤知裕 氏
生成した企画は、メディアへの展開はもちろん、SNS運用への貢献も期待できる。
「広告然とした広告はソーシャル上で嫌われるリスクがありますが、逆にオーガニックなトピックと自然に連動させられれば、ユーザーの深いエンゲージメントを引き出すポストをつくることができる。AIを活用することで、その境界線を見極め、日常のコミュニケーションの中にブランドメッセージをシームレスに届けることが可能になると考えています」(石割氏)
戦略からエグゼキューションまでAIが自律連携
こうして導き出された高度なインサイトや企画案を、実際の広告配信やクリエイティブ制作へとシームレスに接続するのがHakuhodo DY ONEだ。同社は、戦略立案から制作、配信、分析までを一気通貫で実行するAIエージェント型広告サービス「ONE-AIGENT(ワン・エージェント)」を提供している。
Hakuhodo DY ONEの竹中万丈氏は、この統合プラットフォームがもたらす変化について説明する。
「これまでのAI活用やデータ連携は、どうしても部分最適や非同期的なものにとどまっていました。『ONE-AIGENT』は、自社のマーケティングAIエージェントだけでなく、クライアントが保有する1st パーティーデータ、そしてプラットフォーマーのデータを連携させ、複数の専門特化AIが自律的にオーケストレーション(調整・指揮)を行います。
例えば、クライアントの在庫データから『過剰在庫の商品があるので売るべきだ』という課題をAIエージェントが抽出し、Grokと連携してX上から最適なインサイトを発掘。それを基に博報堂DYグループの統合マーケティングプラットフォーム『CREATIVITY ENGINE BLOOM』をはじめとした各AIツールがバナーやコピーを自動生成し、さらに配信前の効果予測までを行う。一連のフローを構築できるのが強みです」
「CREATIVITY ENGINE BLOOM」内のプロダクト、「CREATIVE BLOOM PLANNING」を用いたAIペルソナとの対話の模様。仮説の設定やクリエイティブ案の作成、効果の事前予測など多様な用途に用いられている
「ONE-AIGENT」による自動化は、マーケティングプロセスに「量」と「質」両面での変化をもたらすという。
「量的な変化としては、人間ではさばききれない量のプラニングやエグゼキューションをAIが並行処理するため、極端に言えば『顧客一人ひとりに向けたハイパーパーソナライゼーション』の実現も可能になります。質的な変化としては、人力ではアクセスできなかった膨大な情報からインサイトを導き出せるようになります。
だからこそ、これからの人間に求められるのは、AIが捉えきれない定性的なリサーチの深掘りや、ブランドのナラティブ設計。より上流の意思決定へとシフトしていくと考えています」(竹中氏)
Hakuhodo DY ONE 広告マネジメント本部 広告テクノロジー企画局 局長 竹中万丈 氏
「個別最適」の積み重ねが、最強の「全体最適」を生む
Xのリアルタイムデータと生成AIが結びつき、生活者の微細なインサイトまで可視化できるようになった今、広告コミュニケーションの発想も大きく変わろうとしている。
これまでは、マス広告を中心とした大きな戦略を先に描き、それをデジタルへと下ろしていく「トップダウン型」が主流だった。しかしこれからは、SNS上で自然発生する生活者の「熱量」を即座に捉え、それをマストレンドへと波及させていく「逆上がり」の発想が必要になる。
「従来は、メディア単位で最適化されたクリエイティブでリーチを重視するプラニングが主流でした。しかしこれからは、Xのデータなどから見えたクラスタ(界隈)ごとの特性に合わせて、コミュニケーション設計をポスト単位で徹底的に『個別最適化』し、エグゼキューションまで落とし込むことが可能になります。その一つひとつの個別最適に真摯に向き合った結果の積み重ねが、最終的なマーケティング効果の『全体最適(最大化)』につながっていくと考えています」(石割氏)
プラットフォーマーのデータは、もはや「広告を出すための配信先の情報」ではなく、マーケティングのエンジンそのものだ。高橋氏は、そこで広告会社が介在する意味をこう語る。
「広告主のマーケターの皆様は、自社プロダクトについて誰よりも深い知見を蓄積されています。そこに我々が持つデータや生成AIによる客観的な視点を掛け合わせることで、市場の新たな可能性を多角的に浮き彫りにできます。潜在的な機会を確実に捉え、事業成長を共に形にしていくことが我々の役割です」(高橋氏)
生成AIとデータがシームレスにつながるこれからの時代、広告主・プラットフォーマー・広告会社のパートナーシップはどのように進化していくべきなのか。最後に奥村氏が展望を語った。
「広告主のマーケターの皆様にとっても、今は非常に面白い時代だと思います。Xの発話データを自ら分析し、生成AIの力を借りて企画を立て、PDCAを回していく。マーケター個人の裁量やできる領域が劇的に広がっています。
これからの時代は、各社が持つ独自のナレッジやデータを自律的にコラボレーションさせていくことが求められていくのではないでしょうか。技術の進化を、広告主もプラットフォーマーも我々広告会社も、一緒になって『面白がって』取り組んでいく。そんな本質的な共創関係を築いていきたいですね」(奥村氏)

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