サントリー食品インターナショナルの伊藤正明氏は、特定保健用食品の「特茶」の成功と失敗の軌跡から、記憶に残る「語りかけ方」と「余白」の重要性を説いた。ポスティング業界を牽引するアトの山口大樹氏・松本啓佑氏は、アナログ媒体にデータとテクノロジーを掛け合わせた高精度なエリアマーケティングについて解説した。やまやコミュニケーションズの西野真希子氏は、創業50周年を機に「一方通行から共創へ」とブランドを再定義し、デジタルとリアルを循環させるファンコミュニティ構築とAIの新たな活用法を語った。
識別子としての「グラフ」活用と、環境変化に対する戦略転換
サントリー食品インターナショナルの伊藤氏は、同社における広告の最大の役割を「ブランドの持続的成長をリードすること」と定義し、商品開発と完全に分業された「特茶」のコミュニケーション戦略について語った。特茶は2013年に発売し、トクホ市場を大きくリードする存在となったが、機能性表示食品の解禁に伴い、特茶よりも安い類似ベネフィットの競合商品が市場に乱立したことで、市場環境は厳しさを増した。調査を重ねていく中で、コモディティ化した市場だからこそ、トクホならではのヒト試験データが競合との識別子になることに気づき、2023年秋より「グラフ」を用いたコミュニケーションへと舵を切った。
このグラフは2013年当初から存在したが当時は機能せず、市場に類似商品が溢れる現代において初めて、競合との明確な「識別」と「納得感」を生む強力な武器となり、特茶をV字回復へと導いた。
語りかけ方の使い分けと、記憶に残す「余白」の作り方
伊藤氏は、生活者の記憶に残る広告を作るためには、一方的な情報発信ではなく、共感を生む「余白」を作ることが不可欠だと強調する。マス広告のように山の上から「おーい」と広く呼びかける手法と、日常に溶け込み「『ねえねえ』と肩をトントンする」ような語りかけ方を使い分けることが重要である。その成功例が、パッケージのリニューアルを伝える「ぴったり広告」である。電車のドア窓に貼られた穴の空いた広告と、駅のホームの看板が、停車時にぴったり重なって一つのグラフが完成するというアイデアで、通勤客に「これは何だろう」と前のめりにさせる余白を作り出した。
この企画はSNSで拡散され、ACCやJAA賞グランプリ、AD Festなど数々の広告賞を受賞するに至った。
失敗と成功の事例が示す、ブランドの「スタンス」の重要性
一方、語りかけ方を間違えた失敗事例として、反論企画を挙げた。第1弾のドア横広告では「特茶VSひろゆき」の対立構造が分かりやすく話題を呼んだが、第2弾は電車の広告ジャックで展開したことで、一方的な情報を浴びせる形となりネガティブな感情を生み、ネガティブな反響を招いてしまった。この反省を生かし、派生商品「特水」の発売時には、御茶ノ水駅をジャックするにあたり「お茶の水だから御茶ノ水」と掲げ、駅や地域への最大限の感謝とリスペクトという「ブランドのスタンス・態度」を明文化してクリエイティブを制作した。
結果として、多くの共感とSNSでの自発的な発信を生み出すことに成功し、戦略を「しつこく諦めずに愚直に考えきる(やってみなはれ)」ことの重要性が証明された。
ポスティング市場の成長と、アナログ×デジタルの融合
アトの山口氏と松本氏は、年間13億枚のチラシを配布し、「ポスティング」という言葉の商標登録も保持する業界のリーディングカンパニーとしての視点から市場動向を解説した。同社は売上66億円から今期80億円を見込む急成長を遂げている。その背景には、新聞折込の購読率低下やDMの発送費高騰、フリーペーパーの部数減少によるリプレイス需要に加え、コロナ禍による在宅需要を受けたフードデリバリーなどの増加がある。かつてのポスティングは無差別に配るイメージが強かったが、現在ではデジタルマーケティングではリーチしきれない層に確実に情報を届ける手段として、Web広告やテレビCMと併用される戦略的な媒体へと進化している。
データ分析とGISが導く、無駄のない高精度なターゲティング
この進化を根底で支えるのが、GIS(地理情報システム)とデータ分析を活用した独自のエリアマーケティングである。同社は国勢調査に基づく最大650項目のデータを用い、ターゲットが密集するエリアを町丁目単位でヒートマップ化(濃淡で可視化)して抽出する。さらに、単に配布するだけでなく、反響が良かったエリア(例:若年層・一人暮らし・高収入)の特性をクラスター分析し、類似した属性を持つ未配布エリアへアプローチを横展開することで反響を最大化している。
また、クライアントから提供された顧客データを取り込み、例えば「半径2kmで顧客の70%をカバーできる」といった商圏を可視化することで、無駄打ちを省く最適な配布プランを設計している。さらに、リアルタイムGPSを用い配布員の徹底管理により、ポスティング業界特有の不透明さを払拭し、高い品質を担保している。
「2秒」で決まるクリエイティブと、多様なサービス展開
ポスティングにおいて、消費者がチラシを自宅に持ち帰るか捨てるかを判断する時間はわずか「2秒」と言われている。そのため、一瞬で魅力を伝えるクリエイティブの最適化が重要となる。
具体例として、大手転職サービスのDMを文字中心のハガキから「招待状形式」のクリエイティブに変更して反響率が約3倍になった事例や、化粧品通販において商品画像を大きく上品なデザインに刷新し反響率が2倍になった事例を紹介した。同社はデザインから印刷、配布までをワンストップで提供できる。サービス展開も多彩で、商圏が決まっている店舗向けの「エリア指定プラン」、通販向けに広域かつ安価に配布する「エリアフリープラン(MEGAPOS)」を用意。さらに、ポスティングが困難な高級マンションに宛名付きで届けるオリジナルマガジン「yoff(ヨフ)」や、地域情報を添えて配布する「@LETTER(アットレター)」など、独自のチャネルで新たな顧客接点を創出している。
50周年を機とした「一方通行から共創へ」のブランド再定義
やまやコミュニケーションズの西野氏は、明太子やもつ鍋、酒類など多様な食の事業を展開する同社のブランド戦略について解説した。
売上規模約200億円のうち、B2Bの卸売が120〜130億円と事業の大きな柱を占める同社だが、2024年に創業50周年を迎えた。この節目を、単なる記念行事ではなく、ブランドの大きな再定義を行う絶好の機会と捉えたという。
この節目を機に、ブランドの大きな再定義を行った。それは、単に「明太子というモノを売る会社」から「九州の食文化やワクワクするという体験を届ける存在」へと進化するという決意である。これまでの50年間は、企業が良いものを作り一方的にお届けする時代であったが、これからの50年は、顧客と共にブランドを育てていく「共創」の時代にするため、顧客との関係性のアップデートへと明確に舵を切った。
未完成を共有し、デジタルとリアルを循環させるファンコミュニティ
この「共創」を実現する主軸が、デジタルとリアルを循環させる顧客接点のデザインである。まず公式Instagramでは、企業としての「完璧な正解」を発信するのをやめ、遊び心のある発信に変えたことで、運用1年でフォロワー数は2.5万人、リーチ数は2.7倍に急成長し、共創の「広場」となった。さらに約2000人弱のコアファンが集うコミュニティサイト「わいわいやまや」では、あえて「未完成」な情報を発信する。新商品のキャラクター名をファンに決めてもらったり、「裏話研究会(うらけん)」で開発担当者が製品化の苦労をオープンに語ったりすることで、顧客に「中の人」になってもらう体験を提供している。
重要なのは、デジタルを「再会を約束する場所」と位置づけ、店舗でのマリアージュの会などリアルなイベントで社長や社員とファンが直接交流し、熱量を循環させている点である。
規模拡大による課題と、AIエージェントがもたらす「人間らしい時間」
こうした施策は具体的な成果を生んでおり、公式アプリは10万ダウンロードを突破し、約1万人のアクティブユーザーを抱える。お年玉クーポンの利用率は34.5%に達し、お歳暮時期のアプリ経由のEC売上は前年比130%を記録した。
さらに同社は売上の主軸であるBtoB領域のインサイドセールス(新規問い合わせの初期対応など)に、AIエージェントの導入を開始した。事務的な対応をAIに任せることで、効率化によって生まれた時間と心のゆとりを、ファン一人ひとりと向き合う時間や、新しいワクワクを生む企画の立案に充当していくという。

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