統合報告書は「義務」か「武器」か ――企業価値を伝えることの意味を見直す

2025年末時点で発行企業は1,225社となり、10年間で約6倍に急増した「統合報告書」。その一方で、多くの企業が形式を整えることに追われ、「開示のための開示」になってしまっていないでしょうか。

開示に追われる状況から脱却し、本来の目的である「対話のツール」としての統合報告書のあり方を問い直します。(本記事は、『さよなら 統合報告書』から一部を抜粋・編集して掲載しています)

統合報告書の発行企業は10年で6倍に急増

統合報告書を発行する企業は、2025年末時点で1,225社にのぼり、10年前の2015年(206社)から約6倍に急増しています。企業の価値を財務的成果だけで測るのではなく、知的財産や非財務資本、そして「長期的な価値創造のストーリー」として可視化する試みは、日本の資本市場において確実に浸透しつつあります。

しかし、依然として制作現場には多大な負荷がかかっています。開示担当者は、目まぐるしい開示ルールの変更に伴う社内調整や、度重なる修正作業に追われているのが現状です。いつしか、統合報告書という媒体を「無事に発行すること」自体が目的化してしまうケースも少なくありません。私たちは今、統合報告書を単なる制度対応の「義務」としてつくり続けるのか、それとも企業の未来を切り拓く「武器」にするのかという、根本的な問いに直面しています。

「インベストメントチェーン」の原点

そもそも、企業報告とは単なる書類づくりでも、形式的なルーティンワークでもありません。それは企業が投資家や社会と交わす「対話そのもの」です。企業から発信される情報は様々に存在しますが、実際に価値創造や正しい評価につながるものはそれほど多くありません。

企業報告に求められる本来の役割とは、自社の持続的な成長ストーリーを提示することで、人・情報・資金を自然と呼び込む「インベストメントチェーン(投資の連鎖)」をつくり出すことです。透明性と信頼性の高い情報を届けることで、初めてステークホルダーからの共感と信頼基盤が形づくられます。

しかし、多くの日本企業は、事業別の売上や施策の内容といった「過去の経済活動の詳細説明」を丁寧に行う反面、それらが企業価値向上のストーリーの中でどう位置づけられているかの説明が不足しがちです。個別情報は驚くほど詳しいのに、ストーリーとしての連続性が弱いため、投資家の心に響かないというミスマッチが起きているのです。情報を単に開示するだけでなく、それがどう未来の企業価値につながるのかをロジカルに証明できなければ、投資家を引きつける「武器」にはなり得ません。

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宣伝会議 書籍編集部

宣伝会議書籍編集部では、広告・マーケティング・クリエイティブ分野に特化した専門書籍の企画・編集を担当。業界の第一線で活躍する実務家や研究者と連携し、実践的かつ最先端の知見を読者に届けています。

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