中高生に教わったコピーを書く3つのヒント
7月1日。第64回宣伝会議賞、中高生部門の応募がはじまります。前回は10年分の名作を振り返りました。今回はもう一歩踏み込んで、「なぜ、あの一行は心を動かすのか」。その構造を、技術としてお伝えしたいと思います。才能の話ではありません。知っていれば、誰でも近づける。私はそう信じています。
「感動」という言葉は、「感じて、動く」と書きます。おもしろいのは、動かそうと力むほど、読む人は動いてくれないこと。書いた本人が本気で感じた瞬間にだけ、不思議と相手の心も動く。これから話す3つのヒントは、技術であると同時に、「どう感じるか」の話でもあります。
ヒント① 主語を、自分に戻す
うまいことを言おうとすると、人はつい「世の中的に正しいこと」を書いてしまう。けれど強いコピーは、たいてい主語が「私」です。
「たまに眼鏡が1番可愛い」(第57回・グランプリ/ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアカンパニー)。「人との関わりは苦手。けど人の声は好きだ。」(第54回・ブロンズ/radiko)。
どちらも、誰かに教わった正解ではなく、自分の中から出てきた本音です。商品の説明からではなく、自分の心が動いた地点から書く。出発点を自分に戻すだけで、言葉は急に体温を持ちはじめます。
ヒント② 遠くの正論より、近くの具体
「環境を大切に」「家族はいいものだ」。正しいけれど、心は動きにくい。正論は、抽象的だから。心を動かすのは、いつだって具体のほうです。
「クリーニングじゃ明日の告白に間に合わない。」(第55回・グランプリ/菅公学生服)。制服・告白・締め切りという具体が、読む人の記憶を勝手に動かす。
「スカート2回折って、新聞2回開く。」(第54回・ゴールド/読売中高生新聞)。朝の所作という一点に、世代がまるごと立ち上がる。
「あ、ここ進研ゼミでやってないのに分かる!」(第61回・シルバー/ベネッセコーポレーション)も、教室の実感そのものです。
具体を書くと、読み手は自分の思い出を貸し出してくれる。中高生は、大人が持っていない「いまの具体」を、いくらでも持っているのです。
ヒント③ 当たり前を、半歩ずらす
「おもしろい」の語源は「面が白い」。目の前がぱっと照らされ、視界がひらける感覚を指したそうです。心を動かすコピーは、まさにこれ。当たり前を、半歩だけずらして見せてくれる。
「引越しの一番の荷物は、個人情報です。」(第61回・グランプリ/TOPPANエッジ)。引越し=家具、という常識を裏切る。
「AIは、私の志望校を笑わない。」(第62回・グランプリ/ベネッセコーポレーション)。最新技術を、弱さを預ける相手へ反転させる。
「プロポーズに使いたいお店じゃなくて、プロポーズしたあとに通いたいお店。」(第63回・グランプリ/コロワイド)。特別な一日を、その先の日常へずらす。一度ぜんぶ疑って、半歩ずらす。それだけで、見慣れた景色が新しく光りはじめます。
なぜ、中高生の言葉は大人を打つのか
技術の話をしてきましたが、最後にいちばん大事なことを。
中高生の言葉が大人の胸を打つ最大の理由は、書き手が「当事者」だからだと、私は思っています。大人は、本音をそのまま口にしない作法を、いつのまにか身につけてしまう。立場や損得を計算して、角の取れた言葉を選んでしまう。けれど中高生の言葉には、その計算がない。
「思いっきり泣いた。明日は任せた。」(第60回・グランプリ/粧美堂)。
「90点が悔しくなる。」(第60回・ゴールド/ベネッセコーポレーション)。
こういう一行は、大人が書こうとしても書けません。とうに忘れてしまった感情だからです。むきだしの本音は、読む人に「そうだ、自分にもこういう気持ちがあったんだ」と思い出させてくれる。つまり、中高生のコピーは、大人にとっての発見ではなく、再会なのだと思います。だからこんなにも、深いところを打つのでしょう。
書きはじめる人へ
主語を自分に戻す。近くの具体を書く。当たり前を半歩ずらす。この3つを携えて、まずは一行、書いてみてほしいのです。本音を書くのはちょっと怖い。けれど、いちばん力が生まれます。さあ、書きはじめてみましょう。
