従業員エンゲージメント調査が企業に浸透する一方、現場での、その実効性に対する実感不足や、結果を具体的な改善策に落とし込めないなどの理由から、調査自体が目的化するケースも少なくない。
宣伝会議が7月29日に開催した「人財会議カンファレンス」では、クレオと日本能率協会コンサルティングが、「『働きやすさ』だけでは業績は上がらない。~エンゲージメントデータを経営判断に変換し、組織成果へ落とし込む『3つの視点』~」と題して講演。従業員、企業、顧客の価値を循環させ、エンゲージメントを業績向上につなげる考え方と具体策を紹介した。
【Index】
エンゲージメント調査、5割弱が「役に立っていない」
数字と現場の声から優先課題を見極める
eNPS℠と「三方よし」で組織課題を分析
E² Compass スーパーマーケットA社導入事例
具体的改善施策までを立案・実行
エンゲージメント調査、5割弱が「役に立っていない」
講演ではまず、従業員エンゲージメント調査を実施しても、組織改善につながらない企業の課題を整理した。
工藤氏は、人事と現場で問題意識が異なり、調査結果をアクションプランに落とし込めないことや、改善を誰が主導するのかが曖昧なまま施策をやり切れないことを挙げた。さらに、エンゲージメントが業績向上にどう結び付くのか分からず、調査の意義自体に疑問を感じるケースもあるという。
クレオ 東日本マーケティング本部 ストラテジックリサーチャー 工藤玲 氏
クレオが全国の会社員500人を対象に実施した調査では、そのうち勤務先で従業員エンゲージメント調査を実施している250人の46.4%が、調査は自社の「働く環境の改善」や「やりがいの向上」に役立っていないと回答した。理由として、「調査実施自体が目的になっている」「結果に対する具体的な改善策が示されない」「どうせ会社や組織は変わらないと諦めている」といった声が挙がった。
江渡氏は、数字を集計するだけでは施策につながらないと指摘。部署別や階層別に比較する場合も、数字の背景で何が起きているのかまで掘り下げる必要があるという。調査後に「何をするのか」という第1歩を示し、小さくても具体的な行動を始めることが重要だとした。
日本能率協会コンサルティング 経営コンサルティング事業本部 シニア・コンサルタント 江渡康裕 氏。
数字と現場の声から優先課題を見極める
従業員エンゲージメント調査を強い組織づくりにつなげるため、講演では3つのポイントを紹介した。
1つ目は、職場の本音を数値とリアルな声の両面から可視化することだ。スコアやKPIだけでなく、自由回答などから、なぜその結果が生じたのかを把握する。
2つ目は、部署や店舗を比較し、それぞれの現場に適した改善を行うこと。企業は小さな組織の集合体であり、現場ごとの違いを見抜き、ピンポイントな改善につなげる必要がある。
3つ目は、最優先課題を見いだし、素早く効率的にアクションを実行することだ。複数の課題すべてに同じ強度で取り組むのではなく、従業員の満足度や企業の収益に直結する打ち手を優先する。
中でも重視しているのが「顧客志向」の視点だ。従業員エンゲージメントが高まれば、顧客対応やサービスの質が向上し、顧客ロイヤルティが高まる。利用頻度や利用金額の増加を通じて業績が向上すれば、人材投資や職場環境の整備に還元できる。クレオは、この循環を「価値循環による成長モデル」として示した。
eNPS℠と「三方よし」で組織課題を分析
こうした考え方に基づくソリューションが、クレオの「E² Compass(イーツーコンパス)」である。
横井氏は、E² Compassを、従業員エンゲージメントの高い組織づくりと企業の収益向上に貢献する組織力向上ソリューションと説明した。
特徴は、推奨度から従業員の本音を知ること、「個」「組織」「顧客志向」の三方よしで分析すること、調査から具体的施策まで一気通貫で支援することの3点だ。
クレオ マーケティング企画部 マーケティングリサーチ課 ストラテジックリサーチャー 横井祥太 氏
調査には従業員推奨度を示す「eNPS℠」を採用する。「現在の職場を親しい友人や知人にどの程度おすすめしたいと思いますか」と尋ね、職場への推奨意向を測る。E² Compassでは、eNPS℠に影響する要因を「個」「組織」「顧客志向」の3つの視点、10の要因カテゴリーから分析する。結果は4象限のマップに整理し、評価とeNPS℠への影響度を踏まえて改善の優先順位を可視化する。
分析後は、企業全体、事業組織、部門・職場といったレイヤーごとに施策を検討する。組織構造、機能・仕組み・場、人材、組織文化という「SFRC」のフレームを用い、「誰が、何を、どのように変えるのか」を具体化する。
E² Compass スーパーマーケットA社導入事例
講演では、中部地方を中心に展開するスーパーマーケットA社の事例を紹介した。同社は、パート・アルバイトや外国籍の従業員を含む全従業員720人を調査対象とした。従業員のバックグラウンドが多様化する中で、一人ひとりの声を十分にすくい上げられていない可能性があることや、既存施策の強みと課題を把握できていないことが問題となっていた。
2025年5月中旬から6月末に調査を実施した結果、A社のeNPS℠はマイナス45.4で、スーパーマーケット業界平均のマイナス80.6を上回った。事前ヒアリングを踏まえ、「仕事の充実」「人材育成」「流動性」「企業方針」「顧客対応力」の5項目を深掘り。平均スコアが最も高かったのは顧客対応力、最も低かったのは流動性だった。自由回答から、仕事量の多さや社員評価・教育、人間関係など、数値の背景にある課題も整理した。
分析を踏まえ、「人材育成とキャリア形成機会の強化」「コンプライアンス意識と労働環境の健全化」「管理職のマネジメント力向上と組織ビジョンの具現化」「業務負荷の適正化と効率的な人員配置の実現」「顧客志向の浸透を拡大する仕組み・ブランディング強化」の5つを重点課題に設定した。
江渡氏は、給与や労働環境だけでなく、仕事を通じた成長実感が働きがいに大きく影響すると説明した。顧客志向についても、満足した従業員だから顧客に良い対応ができるという一方向だけでなく、顧客に貢献できていると実感する従業員ほど働きがいも高いと指摘した。
具体的改善施策までを立案・実行
具体策としてA社では、店舗・本部のマネージャー、リーダー層を対象に、2種類の研修を実施する予定だ。コンプライアンスやハラスメントへの理解を深め、従業員の自発的な学びと成長を促すマネジメントを学ぶ研修と、外国人従業員の活躍に向けて異文化理解を促す研修を計画した。いずれも半日程度とし、ワークショップを交えながら実践的なコミュニケーション手法を学ぶ。
さらに、「顧客志向」を企業の魅力の核として発信するブランディング施策も計画した。A社が顧客目線で商品を開発する様子や、顧客志向が働く場の魅力にもつながっていることをアニメCMで表現。交通広告や電車広告、SNS動画広告などを通じて地域住民に発信し、顧客ロイヤルティ、採用力、従業員のモチベーション向上につなげる考えだ。
講演では、従業員エンゲージメント調査は課題の構造化まで踏み込み、「どう変わるのか」具体的な施策に落とし込んで初めて、関係者が実効性を感じられるものになると総括した。顧客志向の視点を加えることで、定着や離職防止にとどまらず、売上や業績の拡大まで同時に目指せるとした。
※eNPS℠はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標
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株式会社クレオ
マーケティング開発部
松本・滝源
Mail:marketing-ae@kreo.jp
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