BOOK CROSS TALK vol.1 「欲しい」は、どこから生まれるのか。 ――インサイトと偶発購買デザインから考える、人が動く瞬間

『新版「欲しい」の本質 人を動かす無自覚な欲求「インサイト」の見つけ方』の著者・大松孝弘氏と、『偶発購買デザイン 「SNSで衝動買い」は設計できる』の編著者の一人である宮前政志氏。人の「欲しい」という感情の源泉を探るインサイトの専門家と、SNS時代の偶発的な購買行動をデザインする専門家が、「欲しいが生まれるメカニズム」をテーマに対談を行いました。人の内側に存在する「無自覚な欲求」と、それを取り巻く「外部環境のデザイン」。二つの視点が交わることで、これからのマーケティングが目指すべき方向性が見えてきました。

「欲しい」はいつ生まれるのか?潜在的な欲求が「発火」するメカニズム

宮前:私はマーケティングに長く携わる中で、インサイトについて考える機会が非常に多くありました。特に、大松さんの著書『欲しいの本質』で定義されている「人を動かす無自覚な欲求」についてどう捉えるか、日々悩みながら仕事をしてきました。いつも難しいと感じているテーマについて書かれた大松さんとお話しできるのを、今日は楽しみにしておりました。

大松:宮前さんの著書『偶発購買デザイン』を読んで感じたのは、インサイト、つまり「本人も気づいていない無自覚な欲求」にどうやって出会うのかを突き詰められているな、ということです。複雑な消費者の行動やメディア環境をどうシンプルに捉えれば、そうした「出会い」の環境をデザインできるのか。数多くの大変な実務の中で見いだされた考えが『偶発購買デザイン』なのだろうと思いました。

私が考えていたのは、インサイトが人間の「内側」を扱っているのに対し、偶発購買デザインは環境などの「外側」を扱っているということです。「欲しい」の源泉を発見するのがインサイトだとすれば、「欲しい」をどう発火させるかを設計するのが偶発購買デザインなのかなと。生活者の内側に本人も気づかない形で内在するインサイトを捉え、その欲求が「欲しい」という顕在化した状態に発火するような出会いを設計すること。これこそが、これからのマーケティングにとって重要なのではないかと感じました。

宮前:そこで、大松さんにぜひお伺いしたい質問を用意させていただきました。1つ目は、欲求が「発火」するメカニズムについてです。インサイトは「人を動かす無自覚な欲求」と定義されており、人の中にまだ気づかれていない状態で内在しているものだと理解しています。一方で私が『偶発購買デザイン』で考えてきたのは、もともと「欲しい」と自覚していなかったのに、商品との出会い方や売り場の作り方、情報のタイミングといった環境条件によって、突然「欲しい」という気持ちが生まれる現象です。大松さんが先ほど「発火」という言葉を使われましたが、まさにそうしたことがSNSを中心に起きています。人の中に眠っているまだ顕在化していない欲求は、外部からのどのような刺激と出会うことで生み出されていくのでしょうか。

大松:私たちはインサイトを捉えるために必要な情報要件として、「シーン」「ドライブ」「エモーション」「バックグラウンド」という4つの要素を文脈として捉えることを実践しています。この4要素は「Fact and Emotion(事実と感情)」で構成されており、シーン、ドライブ、バックグラウンドには客観的な事実が含まれていなければならない、と定義しています。なぜなら、その客観的な事実こそが、具体的な施策のヒントを与えてくれるからです。

つまり、偶発的に欲求が発火するきっかけとなるのは、その「シーン」「ドライブ」「バックグラウンド」にある「事実」です。どういう事実に基づいてその感情が生まれるのか、その事実の部分をくすぐってあげることで欲求が発火するのです。例えば、受験勉強でストレスを抱えている高校生がいるとします。彼らが持つ「受験」というバックグラウンド(事実)に触れ、応援されたときに、「ストレスから解放されたい」という欲求が発火する。受験があるかどうかは本人の感じ方とは関係ない客観的な事実です。このように、どういう事実に基づいて感情が生まれているのかをセットで捉え、そのファクトを手がかりに刺激を考えることがポイントなのだと思います。

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