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インサイト発見に強み!新リサーチ手法「MROC」(前編)

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MROCが登場する必然性ー社会環境の変化に合わせて、マーケティング情報収集の手段が変容している

ソーシャルメディアの活用が企業にも広く普及した今、マーケティングリサーチの新手法として注目されているのが「MROC」(Marketing Research Online Community)だ。特定のテーマに関して興味関心のある人を集め、コミュニティ内のさまざまな機能を使って自然な会話を引き出すというこの手法が、なぜ注目されているのか、GMOジャパンマーケットインテリジェンス 取締役副社長 織戸恒男氏に聞いた。

インターネット調査が抱えていた課題

GMOジャパンマーケットインテリジェンス 取締役副社長 織戸恒男氏

MROCが登場したのは2000年頃。米国の調査会社コミュニスペース社が提供したリサーチコミュニティが始まりと言われている。その後、07~08年頃に米国内のブランデッド・コミュニティ(ブランド主導でつくったユーザーのコミュニティ)での成功が伝えられるようになり、調査手法のひとつとして注目されるようになった。

日本でもMROCが注目され始めているが、私はこの手法が注目される背景には「社会環境の変化」という必然性があると考えている。

そのひとつとして、90年代後半から低価格、短期間、簡便性を売りに利用を拡大させてきたインターネット調査に対して、企業がその課題を再認識し始めているということが挙げられる。

そもそもインターネット調査は、調査専用に集められたパネル(アクセスパネル)に対して行われる。つまり、ランダムサンプリングのプロセスを経て、母集団から抽出された対象者に調査を実施しているわけではないということだ。企業が持つ仮説を定量的に検証する際、抽出された調査対象者が母集団を正しく反映されたものなのかという疑問もわく。

2つ目がインターネット調査が登場した90年代後半は、オンライン上でのアクティビティが少なかったため、ユーザー側も「PC画面でアンケートに答える行為」自体が新鮮で、アクセスパネルへの登録者や新規の調査協力者を得やすい環境にあった。また、ユーザーがネット上でポイント(謝礼)を獲得できるような活動が他に少なかったことから、調査の協力も比較的得やすかった。

しかし今やオンライン上のアクティビティには、SNSをはじめ「アンケート調査」の競合となるものが多く存在している。新規のアクセスパネル登録者や調査協力者を得づらい環境になっているといえるだろう。

そこで登場したのがソーシャルメディアリスニングやMROCだ。それでは、この2者は何が違うのか。大きな違いを言えば、MROCはオンライン上であってもクローズドな空間で行われるのに対し、ソーシャルリスニングにはそうした「囲い」がないことだ。

消費者が自由に発信する情報をリスニングし、自社のマーケティング活動に活かせる情報を拾っていくのがソーシャルリスニングだ。

一方でオンライン上に、ある一定期間集められた人々の集まりを対象にした調査であるMROCはリスニングだけでなくアスキングの場としても機能する。さらにそこから得られるデータも定性情報だけでなく、コミュニティ参加の母数が一定以上の規模であれば定量的なデータを得て、仮説を検証することもできるため、MROCがアクセスパネルを対象にしたアンケート調査に取って代わり、オンライン上の調査のプラットフォームに成長する可能性も秘めている。

MROC_情報収集

資料提供)GMOジャパンマーケットインテリジェンス

オンライン上で繰り広げられるテキスト情報からの気づき

従来の対面式のグループインタビューとMROCとの大きな違いは、コミュニティ内に相互コミュニケーションが生まれる環境を整えていないと調査の場として十分に機能しないということだ。グループインタビューの場合には、モデレーターがその場でラポール(参加者相互の信頼関係)を形成して運営していけるが、MROCの場合は、前段階でのコミュニティづくりの仕組み、仕掛けが必要となる。

また従来の調査手法と異なり、調査終了後、従来型の調査と同じようなレポートが上がってくるわけではない。MROCでは、書き込まれた数多くのコメントの中から、自社のマーケティング活動に活かせる声を的確にピックアップすることが必要となる。どんな目的でMROCを実施するのかが明確になっていないと、大きな成果を得られないことにもなりかねない。

また、モデレーターに求められる能力も従来のものとは変わってくる。グループインタビューの場合、モデレーターには、機転を利かして掘り下げて質問することや対象者が自然と話ができる場を作れる人柄などが求められたが、MROCの場合、コミュニケーションは「テキスト」情報のみ。モデレーターには、テキスト情報から相手の気持ちや考え、対話の流れを察する読解力が必要とされる。

そうした独自のノウハウが求められることもあるが、MROCが期待される理由としては「調査対象者同士の双方向のやり取りが行われるため、調査設計にはない想定外のインサイトが発見される可能性があること」「(従来のグループインタビューと比べ)時間を合わせて同時にログインする必要がないので、調査対象者の負担が軽い」「エスノグラフィ的な実態を詳細に明らかにする調査が簡単にできる」などの利点があることが挙げられる。
(後編は5月18日に掲載します。)

※本記事は、5月15日発売の宣伝会議の特集「インサイト発見に強み!新リサーチ手法『MROC』」の内容を一部抜粋したものです。