AI時代に「リアルな体験」が注目されるのはなぜか? Adeccoが明かす、企業ミュージアムや工場見学でブランドを築く「人が介在する価値」とは

AI化やデジタル化が急速に進む一方で、企業のブランドコミュニケーションにおける「リアルの体験価値」が改めて注目されている。特にコロナ禍を経て、企業ミュージアムや工場見学施設のリニューアル、あるいはエンターテインメント型施設の開設が相次いでいるが、そこで直面するのが「いかにして企業の思いやブランドのこだわりを、来館者に伝えるか」という現場運営の課題だ。

総合人事・人財サービスを展開するアデコのワークフォースソリューションのブランドであるAdeccoは、企業ミュージアムや工場見学施設などの運営を受託し、接客シナリオの設計からスタッフ教育、運営改善まで一貫して支援している。

人材サービス大手のAdeccoで、アウトソーシング(BPO)事業の最前線を指揮する吉田直晃氏に、体験型施設におけるBPOの現在地と、同社が提供する「人が介在する価値」について聞いた。

企業ミュージアム・工場見学で重要となる「人が創出する体験価値」

人口減に伴う労働力不足を背景に、多くの業務でAIやデジタルツールによる省力化が進んでいる。しかし、企業の展示施設や工場見学、観光施設におけるアテンド業務は「どれだけテクノロジーが進化しても、人が介在することでしか価値を提供できない領域として残り続ける」と吉田氏は分析する。

「コロナ明け以降、インバウンド需要の回復もあいまって、既存のミュージアムや見学施設をリニューアルする企業が増えています。単に製品や展示物を並べるだけでなく、実際に体験していただくことで、企業のモノづくりへのこだわりやブランドの世界観をより深く理解していただく。そのコミュニケーションの主役となるのは、やはり現場で直接お客様と接する『人』なのです」(吉田氏)

アデコ エンタープライズアウトソーシング事業本部 BPSデリバリー1部 部長 吉田直晃(よしだ・なおあき)氏

メーカーなどの企業が自前で体験施設を運営しようとした際、課題になりやすいのが「オペレーションのノウハウ不足」や「スタッフの採用・教育・定着」だ。自社でアルバイトなどを雇用しても、接客品質にばらつきが生じたり、十分な顧客満足につながらなかったりといった壁に突き当たるケースは少なくない。

「企業ミュージアムなどでは来館者と比較的長く接し、コミュニケーションの時間を確保できます。だからこそ、企業が伝えたい価値をどう接客に落とし込むかが重要になります。身だしなみや所作といった基本動作はもちろん、企業の歴史やモノづくりの姿勢をどう『最高の体験』としてお持ち帰りいただくかというシナリオ設計まで踏み込む点に、この領域ならではの面白さと難しさがあります。

広告などによる企業との接点が数十秒であるのに対し、体験施設では30〜60分、時にはそれ以上の時間を共にします。その間のスタッフの言葉や振る舞いの一つひとつが、企業への理解や印象を左右します。私たちは運営を任される立場だからこそ、クライアント企業の歴史や価値観を深く理解し、守るべきブランドは守りながら、来館者の声を生かしてさらに磨いていく。その覚悟を持って現場に立つことが重要だと考えています」(吉田氏)

シナリオ構築からデジタル活用までの一貫支援

AdeccoのBPOサービスは、単に指定された人員を配置する「労働力の提供」にとどまらない。クライアント企業が「その施設を通じて何を伝えたいのか」という根本の目的やブランド思想を深くヒアリングした上で、実際の現場オペレーションや案内シナリオの構築までを手掛ける。

Adeccoは企業ミュージアムなどの施設運営のほか、オフィスの受付業務やコールセンター運営など多様なBPOサービスを提供する

例えば、工場見学ツアーでの説明を単なる一方的なナレーションにせず、クイズ形式を取り入れて参加感を高めたり、見学後の試飲・試食エリアで「自宅でも美味しく楽しめる缶ビールの注ぎ方」をレクチャーする体験企画を提案・運用したりといった工夫だ。

「クライアント企業のご責任者や広報部門の方と打ち合わせを重ね、スタッフが現場で発するコメントの案から提案し、マニュアル化まで落とし込んでいきます。企業ごとに異なる歴史や価値観、施設を通じて伝えたいテーマを、来館者が自分のこととして体感できるようなコミュニケーションを意識しています」(吉田氏)

さらに、Adecco社内のVOC(Voice of Customer)を分析する専門チームとも連携。アンケートの設計から結果の分析、運営への反映までを支援するほか、取得したデータをタイムリーに可視化し、月次報告会などを通じて改善提案につなげている。

分析では、満足度だけでなく、「企業が伝えたい歴史や技術へのこだわりが来館者に届いたか」「再来館や他者への推奨につながったか」といった観点も重視する。来館者から寄せられた質問や反応を、案内コメント、体験プログラム、スタッフ教育へ反映し、ブランド体験を継続的に改善していく。

複雑なシフト管理にもAIツールを導入。個人の希望条件やスキル要件だけでなく「相性」まで考慮した配置作成を可能にし、毎月数十時間かかっていたシフト管理業務を約15分に短縮。現場スタッフの教育や体験価値を高める新たな企画立案に、より多くの時間を割ける環境を整えている。

施設運営の品質を支える正社員SVと多様な来館者への対応体制

こうした質の高い運営を長期にわたって維持できる背景には、Adecco独自の人的基盤とマネジメント体制がある。同社では、現場のマネジメントを担う「スーパーバイザー(SV)」を正社員として雇用・育成することに強いこだわりがあるという。

「業界全体を見ても、現場管理者を有期契約で配置するケースが多いのですが、私たちはSVへの継続的なトレーニングこそが運営品質の肝だと考えています。現在、全国で約1100人の正社員SVが在籍しており、スタッフ10〜15人につき1人ほどの割合で現場に常駐・寄り添う体制を整えています。さらにここ4年ほどは新卒SVの採用・育成にも注力しており、早期からAdeccoのカルチャーやBPOのビジョンを共有することで、安定した組織運営を実現しています」(吉田氏)

実際の現場では、各案件のSVを数件担当する「シニアスーパーバイザー」が多角的にバックアップする。また、ハンディキャップを持つ来館者への介助や外国人観光客対応、ベビーカー利用の親子連れへの接遇マニュアルも完備。台風や地震といった災害時の営業判断や避難誘導についても、全国のSV同士で事例やノウハウを共有・蓄積しているという。

企業ミュージアム・体験型施設の運営事例と立ち上げ支援

Adeccoが手掛ける体験型施設の運営実績は、飲料、食品、調味料メーカーから商業目的のエンターテインメント施設まで多岐にわたる。

日清食品ホールディングスが運営する「カップヌードルミュージアム 横浜」(横浜市)は、来館者の体験案内やスムーズな施設運営を支えるほか、ミツカン創業の地、愛知県半田市にある同社の体験型施設「MIM(ミツカンミュージアム)」では、長年にわたり館内案内や体験プログラムの運営全般をサポートする。また、福岡ソフトバンクホークスが運営するエンターテインメント施設「BOSS E・ZO FUKUOKA(ボス イーゾ フクオカ)」など、商業目的の体験型施設においても集客や満足度向上、ショップでの購買貢献まで見据えたオペレーションを実施している。

企業ミュージアムの先進事例のひとつ、日清食品ホールディングスの「カップヌードルミュージアム 横浜」(横浜市)の運営も支援する

受託の相談から実際の運用立ち上げまでは通常約3カ月が目安だが、既存運営の改善や予算化を含め、半年前〜2年前といった長期視点で相談を受けることも多いと吉田氏はいう。現在は稼働実績に基づく料金体系が主流だが、将来的に来館者数や満足度、体験率などの成果指標(KPI)を共有し、共に創出した価値に応じた成果シェア型の契約スタイルも目指す。

Adeccoは顧客満足度を運営改善に役立てていることも特長だ。親しい人にブランドをどの程度薦めたいかを示すNPS(ネット・プロモーター・スコア)を用いて、運営の質的改善を継続している。

NPSを用いて顧客評価を定期的にモニタリングしていることも、Adeccoのサービス品質を保つことにつながっている

「これまでの運営ノウハウや失敗から得た知見を生かし、『どんなコンセプトで施設を立ち上げれば、来館者の満足度や集客、売り上げにつながるか』という上流工程からご相談に乗れる存在を目指しています。一度訪れた方が『また違う友達を連れて来たい』と思えるような最高の体験価値を、現場のスタッフ一丸となって創り出していきたいですね」(吉田氏)

顧客接点のデジタル化が進むからこそ、リアルな施設で「人が届ける体験」の価値を最大限研ぎ澄まそうとしている。競争が激化する体験型施設において、Adeccoは今後、施設のリニューアルや新規開設の「構想段階」からの参画を強めていく考えだ。

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