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コラム

朝日新聞10年生記者、ビジネスに挑む

「記者は、頭を下げられるのか」金融庁幹部から突きつけられた言葉

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朝日新聞社の社員19人が、最近ベンチャー業界をうろうろしています。

朝7時から、トーマツベンチャーサポートや野村証券が主催する「モーニングピッチ」に潜り込んで、これから世に出ようとしている起業家に接触したり。米国や東南アジアに飛んで、めきめきと伸びているIT企業の技術を生かせないかを探ったり。

取材目的ではありません。

世の中をあっと言わせる技術・サービスを持った投資先や提携先を探し、メディア業界を変えようとしているのです。

19人の「志」が集まった



朝日新聞東京本社の受付のすぐ脇にある「朝日新聞メディアラボ」。フリーアドレス制で、このスペースでイベントをやることもある。
撮影/朝日新聞メディアラボ・林亜季

19人が所属するのは朝日新聞メディアラボ。新しい社内ベンチャーの部署です。今年6月に発足し、9月にオフィスを開設したばかり。新聞を読む人が減る中、「このままでは経営が危ない!」と強烈な危機感を抱いたメンバーが社内公募などで集まりました。

私は19人のうちの一人の竹下隆一郎と申します。2002年の入社以来、約10年間は記者一筋。8月までは、TBS系ドラマ「半沢直樹」で有名になった金融庁の政策を取材していました。ほかのメンバーは、新聞広告のスペシャリスト、全国二千数百カ所にある新聞販売店の経営をささえていた販売局の人、デザイナー、ウエブエンジニア。経歴はさまざまです。20~30代が多いのも特徴です。

売り上げ目標はありません。(1)将来の新聞社の収益を支える新規事業を立ち上げる(2)大企業やベンチャー企業と提携する(3)新しい技術や端末の研究・開発、が主なミッション。木村伊量社長からは「朝日新聞のDNAを断ち切って、実験工房となれ」と言われています。このコラムを読んでいる方からも是非ヒントを頂きたいです。どうやったらメディアは変わるのでしょうか。

批判する立場から、当事者へ

自ら応募したメディアラボへの異動ですが、「記者ではなくなる」という決断に対する周囲の反響に戸惑うこともありました。取材先だった、ある金融庁幹部が発した言葉が印象に残っています。

「記者は偉そうに他人の悪口を書くが、ビジネスなんてできるのか。100円の利益のため、1人のお客さんのために頭を下げられるのか」。

金融庁といえば、旧大蔵省の一部門だったところです。まさに官僚の中の官僚である彼からそんなことを言われるなんて、と思いましたが、最近はベンチャー支援やクラウドファンディングの法整備、中小企業政策に力を入れるなど柔軟になっています。実は時代に取り残されているのは新聞社の方ではないか。私はその場では言い返さず、「結果」を示すことで“倍返し”をする決意をしました。

中小企業が銀行への借金返済を先延ばししやすくする「金融円滑化法」(金融庁担当の法律でした)が、今月3月で期限切れになったときは、【中小5万社 倒産懸念 借金返済先延ばしの円滑化法】というタイトルの記事を私は先輩と書いて、批判しました。

また、ユニクロの柳井正会長兼社長が、ビックカメラと一緒に新型の店舗「ビックロ」を東京・新宿に作ると発表した記者会見の席では、「シンプルで洗練されたイメージで売ってきたユニクロに、ごちゃごちゃした家電量販店の売り場は似合うのか」と本人に質問したものです。記者は相手のことをうのみにせず、批判精神を持つのが仕事です。ただ、自分がビジネスを開発する担当となった今、「ビックカメラでユニクロのセーターを売る」という発想はとても思いつかないので、あの頃を思い出すと少し赤面をします。

次ページ 「記者の強みと弱み」に続く