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コラム

朝日新聞10年生記者、ビジネスに挑む

「記者は、頭を下げられるのか」金融庁幹部から突きつけられた言葉

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記者の強みと弱み

様々な端末を持ち歩く。iPadには米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの伊藤穣一さんのサインと「Question Authority and think for yourself !」の文字。忙しくてご飯を食べる時がないときのために好物の「うまい棒」はカバンに常備。

口とペンばかり動かしてきた記者人生。とはいえ、ビジネスに生かせる力もあるのでは、と希望も抱いています。

たとえば、ジェームス・W・ヤング「アイデアのつくり方」(阪急コミュニケーションズ)などの本でも書かれているように、新しいアイデアは既存のサービス同士や既存の企業同士を組み合わせることで生まれるもの。先ほどの「ビックロ」もそうですが、記者はまったく別の業界の動向や情報を組み合わせて1本の記事にまとめる能力は持っています。

私はいま、農業の会社を回ったあと、教育ベンチャーを訪ねたり、不動産会社とブレストをした直後にゲーム会社の役員と議論したり――業界にとらわれずに情報収集をしています。この3カ月、一見関係のない経営者同士を紹介したことが既に7回あります。あるいは、朝日新聞のデジタル版を担当する部署、記者を講師として派遣する教育系の部署など社内の人とも連絡を取っているので、社内の部署同士をつなげたり、部署の新しい事業を手伝ったりもしています。

体重は3カ月で2・2キロ減りました。黒い革靴1足、白のスニーカー1足をつぶしています。超高速で企業や社内をまわって情報を集め、整理して編集して、何かを生み出す作業は「取材→記事執筆」という作業にとても似ているのです。

もう一つ生かしたいのがインタビュー術。これまでの記者人生の10年間、日本を代表する数々の企業経営者、ノーベル賞受賞者や大物政治家だけではなく、九州でお米を作っている農家の夫婦、就職で悩む大学生など数千人を取材してきました。新人の頃は犯罪者と犯罪被害者の両者に3~4時間ずつ話を聞いたこともあります。

先日、あるITベンチャー企業の30代の社長に言われました。

「竹下さんに乗せられて、しゃべりすぎてしまいました‥‥‥」。これは笑い話の一つですが、他にも、「自分の考えが整理できた」「会社の思わぬニーズを発見できた」などと、おっしゃってくれる方が多いのです(もちろんお世辞を含んでいるのは承知しています)。

根掘り葉掘り、柔らかいものからカタいものまで様々な質問から引き出された「言葉」を元に深い議論ができたり、将来の大きな提携につながりそうなアイデアも出てきたりしています。

「インタビュー術」といっても単に話を聞いているだけなので誰にでもできることかもしれませんが、どこかで記者ならではの「違い」を見つけられたら、そう思っています。恥ずかしい話ですが、記者時代はパワーポイントを使ってプレゼンしたことは1回もありませんでした。取材費や出張費は使っても、事業の予算を計算して、上司を説得するという「社会人の当たり前」さえ経験していません。

これからエンジニアの方とも仕事をご一緒する機会も多そうなので、今更ながらネット上でプログラミングを無料で学べる「ドットインストール」を毎朝5時30分から見ています。ハリウッド映画の大道具をつくる人たちが、1990年代以降の映画業界でCGが流行するのを見て、「仕事を奪われたら大変だ!」と3D技術を学び始めたことと似ているかもしれません。

文字やスタンプだけでなく、音声を送り合う若者も多いLINE。ニュース現場の音を届けられないか、とアイデアが膨らむ。

今の10~20代が情報をどうやりとりしているかも勉強していきたい。たとえば、九州に住む新卒社員の森祐介さん(23)はLINEでやりとりするとき、文字
やスタンプを打ち込むのではなく、音声を録音して相手と送り合うことが多いそうです。「文字を入力するより、声でのやりとりの方が簡単だし、向こうに人気(ひとけ)が感じられるから楽しい」。

試しに森さんと声の録音をやりとりしてみましたが、電話でもメールでもない面白さを「音の会話」に感じました。たとえばニュースの現場の様々な「音」(サッカーの歓声、あるいは紛争地の爆音)をこうした若者に届けることができないかな、と妄想しています。

このコラムでは、ビジネスという新しい世界にダイブしたメディアラボが、報道機関の新しい事業の在り方を模索する姿をお伝えしつつ、読者の皆さんからのご意見・アイデアもいただきたいと思っています。厳しい世界の深い底まで潜り、何かをつかんで海の外に飛び出し、世界をあっと言わせられるか――毎週火曜日更新、どうぞ宜しくお願いします。