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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

川村元気×山崎隆明の「インプットとアウトプットの方法論」【後編】

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【前編】「川村元気×山崎隆明の「インプットとアウトプットの方法論」(前編)」はこちら

映画プロデューサーとして大ヒット映画を次々と手掛けてきた川村元気氏。小説や絵本など、常に新しいチャレンジをしながら結果を生み出し続けている。一方、CMプランナーの山崎隆明氏は、そんな川村氏のものの捉え方、作品に昇華するプロセスに興味を持ってきたという。ジャンルは違えど、日頃から表現と格闘している2人が互いの「インプットとアウトプット」に迫る。

キンチョール「つまらん!」は小津映画から生まれた?

川村:僕は山崎さんの作るCMが大好きなんです。ホットペッパーの吹き替えの企画も、キンチョールのCMも。「つまらん!」はどうやって生まれたのですか?

山崎:金鳥さんはユーモアでブランディングしてきた会社です。でも、空気を汚さないキンチョールは、「ギャグなしで誠実にやってほしい」というオリエンだったんです。絶対にバカなことをやるな、と。でも、どうしてもバカなことばかり考えてしまって企画が通らない。苦しまぎれに、笠智衆さんが小津安二郎さんのお墓の前に座っている写真を見せて、この世界観でやりたいと言ったのが始まりです。すごく好きで、ずっと切り抜きを取ってあった写真なんです。

川村:え!?小津なんですか、あれ。

山崎:正確には、小津さんのお墓の前にいる笠さんですけど(笑)。最初は大滝秀治さんが岸辺一徳さんと一緒に亡くなった奥さんのお墓参りをして、「母さんが生きていたころは空気を汚さない殺虫剤なんてなかった」と言って泣くという内容でした。撮影当日、アドリブで「つまらないことを言うなあ」とセリフを書いたら、それが「つまらん!」という大滝さんのセリフになりました。僕は、企画は世界観が大事だと思っているので、あまりストーリーは考えないんです。広告クリエイターはストーリー欠乏恐怖症の人が多くて、皆15秒にストーリーを詰めたがりますが、僕はそれがないですね。

川村:僕、金鳥とホットペッパーのVコンを見せてもらって、さっき気づいたんですけど…山崎さんってたぶん、映画をバカにしているんですよ(笑)。 小津映画を見る時も、たぶん「笠智衆がしゃべる間がおかしいな」という観点で見ているし、アメリカ映画も、日本の声優が吹き替えしていると何だか笑えるな、という観点で見ているんじゃないですか?

山崎:えっ!?…いやいや、バカにしていませんよ全然。

川村:いや、きっとそうだと思います(笑)。

山崎:そんなことありませんって。じゃなければ、川村さんをお呼びしないじゃないですか! 僕が驚いたのは、プロデューサーとして名前が通った川村さんが本を出したことですよ。しかも小説を。

川村:企画術みたいな新書の話はそれまでもたくさんいただいたんですけど、全部断りました。小説の話も最初は断っていたけど、編集者と話しているうちに話ができあがってしまい…結局書きたくなってしまったんです。「違和感ボックス」に入っていたのは、ケータイを落とした時に公衆電話から職場に電話をかけようとしたら、誰の番号も覚えていなくてショックだった、という体験です。ケータイが普及して十数年で人間の電話番号の記憶がごっそり奪われたんだなと。その日、落ち込みながら電車に乗ったら窓からすごくきれいな虹が見えていた。でもふと電車の中に目を向けたら、全員スマホをいじっていて虹に気づいていないんです。ケータイがないから僕は虹を見ることができた。何かを得るためには何かを失わなくてはならないんだな、と気づきました。そんな話を編集者にしたら、電話だけでなくいろんなものが消えた方が面白いと。そこから生まれたのが『世界から猫が消えたなら』です。アイデアって、何を思いつくかよりも、何に気づくかの方が大事だと思うんです。

次ページ 「架空の「最悪な反省会」を想像しながら製作する」へ続く