コラム

ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント

透明性の時代。企業と生活者、新しいコミュニケーションのカタチ

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炎上は対岸の火事ではない

前回、前々回と紹介した事例を振り返ると、九州電力は、「原子力」という国民最大の関心事が対象だったにもかかわらず、組織ぐるみで世論を意図的に操作しようとした。さらに謝罪会見でも社長が「ノーコメント」を連発、隠蔽体質の奥深さを強く印象づけた。放送時までにソーシャルメディア上で1万人以上の人々が目にしていたことには、全く気づかなかったのだろう。

ペプシは、報道機関の取材時点で 意図的な操作ではないとしながらも自らの過ちを認めた。25万ドルの追加投資を直ちに決定し、読者の反感を最小限に押さえることに成功した。続いて自社メディアやソーシャルメディア上でも速やかに報告を行い、読者に対してフェイスブック上でディスカッションするための場まで用意した。

ドミノピザは、豪州社員の心ない動画により突然のブランド危機に見舞われた。初期対応は遅延したものの、8カ月後の新レシピ発表の際には、顧客の声をポジティブ、ネガティブあわせて傾聴する姿勢をアピール、「驚くべき正直な動画」として注目された。炎上をきっかけにソーシャルメディアで生活者と対話をはじめ、今や先進活用企業として業界をリードするにいたっている。

これらの炎上は日本企業にとっても決して対岸の火事ではない。また、企業がソーシャルメディアを活用していないから安全というわけではない点にも注意したい。ソーシャルメディア・ポリシーを策定・教育し、リスクを未然に防止することは非常に重要なアプローチだ。しかしながら、それでも企業が社員ひとりひとりの考え方や行動まで完全に制御することは不可能だ。ましてや、顧客や生活者の言動を意図的にコントロールできるはずもない。

透明性の時代において、企業が対峙しているのは、行政機関や報道機関だけではない。それより遥かに強力なパワーを持つ「力を持った生活者の共同体」こそ、企業にとって最も重要な審判者となったのだ。生活者は、行政や報道と異なり、執拗に完全性を求めることはしない。そのかわり、彼らが常に求めるのは、素晴らしい商品やサービスであり、真摯で誠実な態度であり、迅速な応対であり、生活者と同じ目線で言動することだ。

「監視」から「傾聴」へ 突然で不連続なパラダイムシフト

今までの企業広報の常識では、行政機関や法律に対抗するために、自社に都合の良い事実のみを公表し、それ以外はノーコメントを貫くことを良しとしていた。そして、マスメディアに対抗するために、彼らと個別に人間関係や取引関係を構築し、情報を裏でコントロールすることに重きが置かれていた。しかしながら、もはやそれらは全く通用しない。それどころか逆に不誠実な態度と見られ、生活者の怒りに油を注ぐ結果となる。そしてその反感がソーシャルメディアを通じて一瞬に広がり、果てしない炎上を起こすことになる。

2008年3月、米国の無名カントリー歌手デーブ・キャロル氏は、ユナイテッド航空の手荷物係にギターを手荒に扱われ、空港で破損させられる。彼は1年以上にわたり抗議を続けたが、たらいまわしされ、あげくに無視された。堪忍袋の緒を切らしたデーブは、2009年7月「United Breaks Guiters」を作曲し、動画コミュニティ「ユーチューブ」にアップした。そのムービーはたちどころに視聴者の共感を得て1000万回以上も再生された。そして彼は有名ミュージシャンとなる。一方でユナイテッド航空の株式は、動画投稿後の3週間で10%も急落、1.8億ドルもの株式価値を喪失する結果となった。

無名の市民でも、その主張が広く世界の共感を得ると、巨大企業にすら深刻なダメージを与えてしまう時代となったのだ。未来学者のアルビン・トフラー氏は、著書『パワーシフト』において、時代の変化にともない、権力の源泉が「暴力」から「富」、そして「知識」に移行していくと予見した。

少し前まで、ネットのクチコミといえば匿名掲示板「2ちゃんねる」が全盛だった。企業は彼らの会話を「監視」し、誹謗中傷などブランドイメージを毀損する書き込みの早期発見に躍起になっていた。ソーシャルメディアの時代、責任ある生活者の対話は、企業にとって「傾聴」すべき対象となった。監視的、分析的に取り組むのではなく、一件一件に目を通し、そこに含まれるエッセンスを経営に生かす。そんな時代が訪れた。それは顧客や社員などあらゆる生活者接点でおきはじめた、突然で不連続的なパラダイムシフトなのだ。

斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー

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