コラム

ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント

ソーシャルシフト:ステップ5 顧客の声を傾聴する仕組みを構築する

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顧客の声のフィードバック・ループと社内対話プラットフォームを構築する

顧客の声を経営に活かす。この発想自体は決して新しいものではない。「なぜ購入したのか?」「なぜ選択されなかったのか?」「生活者の潜在的な心理はどう動いたのか?」これまでもマーケターは、顧客の購買動機を正確に把握するために、購買データやCRM、消費リサーチなどで購買心理を分析し、仮説・検証を繰り返すことでその精度をあげる手法をとっていた。しかしながら、生活者の気持ちは移ろいやすく、購買動機を自ら意識していないことも多い。静かなる大多数の人々「サイレント・マジョリティ」の気持ちをリアルタイムに把握することは、マーケターにとって永遠の課題とも言えるだろう。

そこに登場したのが、生活者が友人と本音で会話するソーシャルメディアだ。そこで交わされている対話はリアルタイムでホットな情報であり、テキストや写真で可視化されている。さらに傾聴するだけでなく、企業から生活者に問いかけることも可能になったのだ。この絶好のチャンスを、企業は見逃すべきではないだろう。コカ・コーラはFacebookに投稿される5000件/日の顧客の声を傾聴し、分析し、競合比較をおこなっている。スターバックスは顧客から投稿された10万件を超える商品サービスに対するアイデアに丁寧に応対、600件を超える改善を実施した。無印良品は生活者と知恵を出しあいながら新商品を開発、すべて大ヒット商品となった。ソフトバンクモバイルは一日2回、生活者がソフトバンクに関して発言したツイートを集約、数百件の「顧客の生の声」をその日のうちに関連部門に届けている。

「顧客の生の声」は、もちろんソーシャルメディアだけではない。実際には、店舗や営業窓口、カスタマーサポートなど、さまざまな顧客接点を経由してリアルタイムにさまざまな声が届いている。残念ながら、今まで多くの企業は、顧客窓口を意図的にカスタマーサポートセンターに集中させ、コスト部門として効率化を図り、トラブルやコストを最小限にするアプローチをとってきた。そこで集まった貴重な声も、分析結果などがセンター内に回覧されるに留まっている企業がほとんどだ。自らの貴重な時間を費やして切実に訴え、一刻も早く改善してほしいという顧客の切なる願いを、多くの企業は封殺し続けていたと言って良いだろう。

これからは180度変わらなければいけない。企業にとって宝の山である顧客の声を、統合的に集約し、関連部門に積極的に配布するのだ。さもなくば、彼らの声はソーシャルメディアを通じて広く伝播し、ブランド価値に致命的な毀損を与えかねない。以下の表には、主たる顧客接点における「顧客の声」の特性をあらわしたものだ。

fig85

この表にあるように、顧客接点ごとの「声の特性」を理解した上で、それをリアルタイムに集約し、関係部門に配布していく。センターに位置する「ソーシャルシフト推進室」、そして組織横断的な会議体である「お客様の声委員会」がこの重要なミッションをになうことになる。この委員会は、コンプライアンス上も監査室と同様に重要な位置づけであり、かつバリューチェーンに付加価値をもたらすプラス効果も期待できるため、社長直轄組織として位置づけることをおすすめしたい。

お客様の声委員会で集約された情報の配布先は社内全部門となるため、オープンの際には全社に対しての説明会が必要となる。また、これを機に社内を横断した対話プラットフォームも開設し、現場間の忌憚のない意見、情報共有を図れる場を提供することが望ましい。この点については、すでに構築されているイントラシステムを利用するか、Facebookのグループ機能を利用するかなど、情報システム部門もまじえて検討する。そして、適時お客様の声チームの機能と対話プラットフォームの講習会を各部門で行うことも大切だ。

全社でフィードバック・ループを運用し、継続的に改善を行う

お客様の声委員会では、あらゆる顧客接点から寄せられた顧客の声を、バリューチェーンの各部門に届けるとともに、顧客の声に対する各部門の改善策と実施状況については委員会で報告してもらう。その施策に対して顧客の反応がどう感じたのかの声を収集し、さらなるアクションに繋げられればベストだろう。ただし、中央からすべての部門を管理し、業務改善を強制するマネジメントスタイルはとるべきではない。届けられた顧客の声を、現場が自発的に業務改善に役立てたいと考えるような社内文化の醸成が重要なのだ。この点については、次回で提言する。なお、悪意のある誹謗中傷、個人を特定した攻撃など、全社配布の前にフィルタリングすべき声もあることに注意したい。

あわせて、定期的に、顧客の声の分析を行うこともお客様の声委員会の重要なミッションとなる。顧客の声をどのように分析すべきかは企業の課題によっても異なるが、以下に一般的な分析レポートのエッセンスをあげておきたい。

季刊「顧客の声レポート」 (3カ月ごとで開始し、必要に応じて月次にシフトする)

  • 顧客の声の全体像 (単語の出現傾向から話題の全体像を可視化する)
  • キーワード分析 (属性別に頻度の高いキーワードを可視化する)
  • 時系列観測 (時系列で、クチコミの特徴を探る。クチコミ量も可視化する)
  • ニーズ発掘 (クチコミを感情解析し、ニーズを抽出する)
  • 象徴的な記事 (特徴あるクチコミを抽出して紹介する)

このレポートは、自動的に大量の日本語クチコミを分析し、感情解析まで行うことのできるテキストマイニングツール「見える化エンジン」(プラスアルファ・コンサルティング社)の利用を想定している。「お客様の声委員会」が集約・分析した情報は、適時サマリーして社内外に発信、業務に活かすとともに、自社の透明性やブランディングを向上させるものとして積極的にオープンにしていくべきだろう。

最後に、古くから顧客の声活用に着目し、事業モデルのコアに据えている例として、ニッセンの事例を挙げておきたい。ニッセンでは年間数十万件にものぼる顧客の声を組織的に活用しているが、その中核となる組織が2002年に設置された横断的な委員会「お客様の声活用委員会」だ。半年ごとに入れ替わるメンバーで構成されるこの組織で、あらゆる顧客接点で発生した顧客の声をテキストマイニングツールによって分類整理。商品やカタログ、オペレーター応対などに対して年間数百件の課題が提起される。課題化された案件とその解決策については、議事録が社内で公開され、対応状況の確認ができるようになっている。

その結果、商品開発、カタログ制作配布、受注、商品配送、返品処理といったプロセスが「顧客の声」に機敏に反応して改善できるようになった。これにより「商品起点」だった事業モデルが「顧客起点」へと進化したのだ。年間600億円を超す売り上げを誇る「ニッセンオンライン」にもシームレスに往来できる自社SNSコミュニティ「ハピテラ」をプラスした。20万人超の会員が参加し、年間50万件ものクチコミが発生する場となっており、すでに費用対効果がはっきりと出ているとのことだ。

斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー

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