広告会社にできる「伝える」ということを半年かけて考える―。
3.11の震災による津波で全壊した宮城県南三陸町で生まれ育ち、震災当日から今日まで写真を撮り続けてきた街の写真家・佐藤信一氏の半年にわたる撮影の記録が一冊の写真集として刊行された。
南三陸町で写真を取り続ける佐藤さんの存在をニュースで知った、アサツー ディ・ケイ 営業の黒川慶太郎氏が「被災地から届ける形の復興支援プロジェクトができないか」と考えたのがきっかけ。広告会社で働く者として、震災に対してできることはないかを考えていた黒川氏は、同じ気持ちを持った周囲のメンバーに声をかけ、営業、クリエイティブ、PR、ビジネス開発、などそれぞれの専門分野から1人ずつが集まったプロジェクトチームが結成された。
半年をかけ写真集「南三陸から2011.3.11~2011.9.11」を制作し、9月27日に全国書店およびAmazonにて発売。発売後は、テレビ番組や新聞で報道され、また発売初日にAmazonの在庫が完売、10月に入って重版が決定するなど、好評を得ている。
佐藤氏は街の小さな写真屋の2代目。生まれ育った町で写真を撮り続けることが、「この町で生かされた写真屋ができること」だと考え、震災後の悲しみも喜びもすべてありのままに写そうとしてきた。
プロジェクトメンバーのひとりであるアサツー ディ・ケイ アートディレクターの武井哲史氏は「今回私たちのプロジェクトが形にしたのは1冊の本ですが、広告屋としての視点で考えると、この写真集はある種のスイッチのようなものだと思う。テレビやネット上でこのプロジェクトを知り、共鳴してくださった方々の気持ちすべてを、宮城県南三陸町につなげるためのスイッチとして機能すれば」と言う。
復興支援の多くは被災地にモノやお金を届ける仕組みだが、「被災地から届ける」こともひとつの形。そのために、「演出しない、答えを出さない、ニュートラルな立場で編集する」というスタンスを最初に決めた。プロジェクトのメンバーは評論家や表現者ではなく、あくまで南三陸と日本全国をつなぐ役割と考えた。
発売を記念して、アサツー ディ・ケイ内で9月末に写真展も実施。写真集の売上げは、1冊につき300円が南三陸町に義援金として寄付される。
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