『ブレーン』では佐藤可士和さんが美大生からの質問に答える連載コーナー「美大生からトップクリエイターへの質問」を掲載しています。本記事は、『ブレーン』2012年1月号(連載第6回目)掲載記事の転載です。
連載「佐藤可士和さんに質問」はこちら
(多摩美術大学 グラフィックデザイン学科1年 小林一毅)
A.自分の作風にはこだわらない
サムライの活動自体が僕の“やりたいこと”
僕はプライベートワークとクライアントワーク、というように自分の仕事を分けていません。クライアントワークというと、自分のやりたいことはできないように思われがちですが、そうじゃない。
クライアントの問題を解決し、期待以上の成果を出し、さらにそれによって世の中にプラスの影響を与えること。それはそのまま僕のやりがいになっています。言ってみれば、サムライという活動自体が、プライベートやオフィシャルという垣根を超えた、僕の自己発信になっているのかもしれません。
僕も学生時代は、自分が何を表現したいかを一生懸命に考えていました。博報堂に就職したのも憧れの大貫卓也さんがいたからですし、作家性のようなものこそクリエイティブビティだと思っていた。けれど広告の仕事を通じて実感したのは、クライアントワークならではの可能性でした。
僕らに依頼があるということは、クライアントは多かれ少なかれ、何らかの問題を抱えているわけです。その問題を鮮やかに解決する方法を考えることは、僕にとってとても刺激的で面白いことなのです。
うまく答えを出せれば、クライアントにも、その商品を使う人たちにも喜んでもらうことができる。そうした広がりは、自己完結しがちな自己発信型のクリエイティブからは、なかなか生まれないと思います。
以前、詩人の谷川俊太郎さんと対談したときに、「どういうときに詩を書くのですか?」と質問したことがあります。すると、意外な答えが返ってきた。自発的に書いたのは最初の何篇かだけで、後はほとんど、書籍や展覧会の企画でクライアントから依頼を受けて書いたものだと仰るのです。詩ですらそうであることに驚きました。「仕事ってそういうものじゃないですか」と言われ、ハッとしたことをよく覚えています。
ひとりでできることは限られています。プライベートワークとして始めたものであっても、影響力が増してビジネスとして回り始めれば、関わる人間が増え、個人の思いだけでは済まなくなる。どんなジャンルのクリエイターであれ、同じではないでしょうか。
オリジナリティは隠そうとしても出てくる
博報堂時代に手がけたホンダ ステップワゴンの仕事以降、僕は「自分の作風が表に出ないほうがいい」と考えるようになりました。「らしさ」がないということは、常にそれまでとは違う、新しい答えを提示できるということ。案件ごとに違う解決策を出せるほうが、プロとしてより秀逸じゃないですか。
オリジナリティや自分らしさというのは、隠そうと思ってもにじみ出てしまうものです。僕の場合は思考回路に特にそれが出やすいかもしれません。例えば、本質的でシンプルなほうがいい、という考え方など。そういう思考はなかなか変わらないし、無理に変えようとも思いません。
でも、クリエイターとしては、決まった作風の人と思われるより、どんな表現もできる対応力がある人と見られた方が絶対にいい。だから、自分の引き出しをひとつでも増やそうと、さまざまな環境や経験に触れ、吸収するようにしています。それを自分の思考によって自在に組み合わせ、表現をできる限り広げていくことこそ、僕の理想です。
※編集部では佐藤可士和さんへの質問を随時募集しています。 brain@sendenkaigi.co.jp まで[質問、お名前、学校名、学部名、学年]を書いてお送りください。
※明日発売の最新号(2012年5月号)では、「起業に向いているのはどんな人ですか?」への回答を掲載。こちらもあわせてご覧ください。
(プロフィール)
佐藤可士和
アートディレクター/クリエイティブディレクター。1965年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂を経てサムライ設立。主な仕事にユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクションなど。
シリーズ【佐藤可士和さんに質問】
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