デジタル活用キャンペーンのインフラに関する注意点

最近デジタルをベースにするキャンペーンをより多く見かけるようになったが、そのインフラの運用はまちまちのようである。中にはアクセスが予想をはるかに超えたためサーバーが落ちたり、反応が遅くサービスが低下するケースも見かける。あるいは、外部サービスを利用しているために、いきなり自社からサービス提供会社のURLに遷移するなど、ブランド体験上好ましくない事態なども起こっているようである。期間限定のキャンペーンを上手く乗り切るためにどのような方法があるのか、いくつか紹介したい。

ピークアクセス対策が鍵に

キャンペーンを行うときのインフラで一番気をつけないといけないことは、ピーク時のアクセス対策であろう。インターネットのサーバーは処理能力の限界に近づくと反応が遅くなり、しまいには処理が固まって動かなくなることがある。このような場合にはサーバーをリブート(再起動)することなどが必要になるが、再起動後も処理能力を超える場合には同じようなことが繰り返されてしまう。あらかじめピークのアクセスを予想してサーバーを用意すると費用がかさみ、キャンペーンのROI(投資対効果)が悪化することとなる。しかも、実際にスタートするまでピークのアクセスが予想できないということがある。弊社でも過去何回か予想を超えるアクセス数により緊急で増強などを行った事例がある。もちろん、サーバーの安定稼動を揺るがす要因はほかにもある、単純なアプリケーションの不具合、設計上無駄なアクセスが発生するような事例や重すぎるコンテンツがサーバーではなく通信回線の容量を逼迫させている可能性もあるだろう。

最近弊社は「コカ・コーラ パーク」を活用してタイアップを行う事例が多いが、このような場合にはタイアップ先のインフラも問題になってくる。こちらもやはり過去にアクセスが多すぎてサーバーが落ちたり、許容量が少ないために告知を制限するケースも出てきている。このような場合はせっかくお客様に来ていただく機会を逸してしまうと同時にキャンペーンのROIが下がってしまう結末になり非常にもったいないと感じている。

自社運用かクラウド(外部運用)か外部インフラか

ピークが予想しにくいキャンペーンのインフラを自社で持つのかどうかは大きな判断の一つだろう。自社で運用する場合にはメリットとして、既にインフラを持っている場合にはコストがかからず、また問題が生じた場合にはすぐ対処することが可能であり、また外部に情報が漏洩する危険性が少ないといえる。最近はクラウドと呼ばれるような外部インターネット上にホスティングを行うサービスも増えてきている。このようなサービスは迅速にしかもサービスによってはアクセスが増えたときには即座に増強できるオプションなどが用意されているケースもある。しかしデメリットとしては追加のコストがかかったり、問題が生じた場合に直接対応できないケースがあることや自社の情報を外部に置くというセキュリティ上の問題も懸念される。

もう一方でキャンペーン自体をより大きな外部インフラ、例えばmixi、フェイスブックやツイッターのようなソーシャルネットワーク上で展開するというケースもあるだろう。この場合は顧客は直接ではなく間接的にSNSを通じての関係になることなどが懸念される。

最近はソーシャルゲームなどでクラウドのサービスを活用するケースが多くなってきているようである。先日来日した米国のベストセラー作家、エリック・リース氏の講演を聞き、直接話す機会も得たのであるが、氏はスタートアップ企業は新規サービスは“柔軟で迅速な対応が重要”と話していた。既存のインフラをもたない企業にとっては即座に大規模サービスに参入できるという大きなメリットがあるのである。では、自社のインフラは減ってきているかというとそうでもないようで、ある国内のホスティング会社に聞いたところ、クラウドを行っていた会社が自社サービスに戻ってきている例も多いということである。 

エリック・リース氏の講演
エリック・リース氏の講演

自社サービスとクラウドの共存が理想か

筆者は現時点では自社インフラとクラウドの活用の併用がソリューションとしては良いのではないかと考えている。自社インフラで大型キャンペーンのピークを想定して年間を通じてインフラを用意することはコスト面で難しいであろうし、重要な顧客データや社内データを外部に置くことに関して抵抗がある企業も多いであろう。したがって、重要な情報や常時運用するトラフィックに比較的安定しているサイトは自社インフラとしてもち、重要な情報を扱わないがキャンペーン時などにトラフィックが大幅に増加すると想定されるサイトは増強に関して柔軟性のあるクラウド環境に構築するというということが理想に近い形ではないかと考えている。ソーシャルメディアなど他社のインフラに完全に乗ることも、コストやスピード的にはメリットではあるが、そこの会員にしかリーチできないという点ではやはり限界がある。コカ・コーラ パークでは逆にソーシャルメディアの会員がコカ・コーラ パークの中でその機能を利用できるような世界を目指している。

Webの体験を全体的に良いものにするために

しかし、実際にはこのようなソリューションがなかなか実現していないという現状がある。その要因をいくつか考えてみたい。

一つには企業のマインドの問題があるであろう。特に既に自社でインフラをもっている場合はセキュリティの面からも部分活用だとしても「クラウド」というソリューションに頭が回らないということが挙げられる。もう一つは広告会社などの提案にこのようなハイブリッドなソリューションが入っていないということが挙げられるだろう。多くの場合にグループでデータセンターを運用していたり、既に関係のあるホスティングサービスなどがあるケースもあるだろう。筆者が懸念するのはこのようなことが続くと企業側では「Webのキャンペーンはコストがかかる」「うまく行ってもサーバーが落ちる」というような印象を持たれ、何よりも顧客に「Webのキャンペーンはアクセスできない」「悪い体験をした」ということが増えることである。インターネットやソーシャルメディアの発達でキャンペーンが大きくヒットする可能性が増えている今、あらためて自社のインフラのあり方や、うまい外部サービスの活用方法を考えてみてはいかがだろうか?

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー

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江端 浩人(事業構想大学院大学教授)
江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

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