集合知をつくる対話の心・技・体(2)

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小林 正弥 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授
戸松 義晴 全日本仏教会、浄土宗総合研究所
枝廣 淳子 環境ジャーナリスト、幸せ経済社会研究所


6月6日掲載の「集合知をつくる対話の心・技・体(1)」の続きです。

国民の意見を反映した政策をつくる仕組みがない。政府と国民の両者に問題

環境ジャーナリストで幸せ経済社会研究所所長の枝廣淳子さん(左)と、小林正弥・千葉大学大学院教授(右)。

枝廣 国民の意見を反映した政策をつくっていく上で、国民と政府の両者に問題があると思っています。心・技・体の要素に分けて考えると、まず、国民の側ではエネルギーの問題に対する態度(心)、話し合うスキル(技)、そして話し合う場(体)、いずれも不足しています。エネルギーに関して、一部の人は熱心に話し合い、活動もしているし、そういう人の数も増えてはいるけれど、まだまだ圧倒的多数の人は当事者意識が低く「誰かがよきにはからってくれるだろう」という感覚ではないかと思います。それから、私たち日本人は議論するスキルをもっていないのですね。

意見をやり取りしながら議論を高めていくことができず、公共の事柄を決める際には、上から下に指示するか、どちらかが説得するかたちになっています。また、特別に会を設けないかぎり、エネルギーについて話し合う場もほとんどありません。政府のほうでも、「エネルギーのような難しい問題は国民の意見を採り入れる必要がない」「いま、原発事故の後で、国民は感情的になっているから、国民の意見を聞いたら国政を誤る」と考えている人もかなりいます(心)。また、国民の意見を国政に反映させる仕組み(技)や場(体)もほとんどありませんでした。

業界団体の利害を代表する専門家が審議会で意見を述べて報告書をまとめ、パブコメには業界団体の人が同じような意見をたくさん送るという、これまでのやり方では民意を反映した国政ができようもありません。

対話型講義で原発推進派と反対派が議論

2010年に放映され、大きな反響を呼んだNHKの番組「ハーバード白熱教室」のマイケル・サンデル・ハーバード大学教授(Photo by TED James Duncan Davidson)。

枝廣 マイケル・サンデルの対話型講義で有名な、公共哲学について、そもそも公共哲学とは何か、その成立ちからお聞かせいただけますか。
小林 2010年に放映されたNHKの番組「ハーバード白熱教室」が大きな反響を呼びましたが、学問の世界では、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに「公共」への関心が高まってきていました。従来、日本では公共的な事柄は、公、つまりお上が中心になって決めるものだと考えられてきていましたが、公共哲学では、多くの人が議論して共通の知恵を探究していきます。1990年代に京都で公共哲学の研究会が始まり、その成果は東京大学出版会から『公共哲学(全20巻)』として出版されています。

海外では、欧州の東欧革命をきっかけに市民社会論が発展してきました。人々が自発的結社を作り、議論することによって公共的な事柄を決めていくことが重要だという考え方です。さらにオバマ大統領の誕生は世界史的な流れの変化を示すものですが、日本でも民主党政権が誕生し、「新しい公共」という言葉が用いられて、公共哲学のような考え方を国政や実社会に取り入れていこうという動きがより活発化してきました。

公共哲学のプロジェクトでは、学際性、実践性、対話性、精神性を大事にしています。その研究会やフォーラムでは多くの人が議論に参加して現実社会の問題について、実践的な課題を考える場を提供します。そこで、参加者は、専門分野でしか通用しない専門用語(ジャーゴン)を使わず、学問の壁を超えた対話をします。そこに、実践者や一般市民が参加していくことで、市民は研究成果を知ることができますし、研究者はその声を聞くことで、社会の要請に応える研究につながります。こうした形で公共哲学のプロジェクトでは対話を重視してきました。

――「ハーバード白熱教室」の対話型講義に人々が夢中になったのはなぜでしょうか
小林 番組放送後、「対話型講義に参加したい」という主婦やビジネスパーソンからの要望が次々と来て、正直驚いています。「あのような講義に参加できれば、自分も周囲の人とコミュニケーションができるのではないか」というのです。世の中には対話の場はたくさんあると思っていましたが、実は日本では真剣に話合う場は多くの人々にとってはあまりなかったのですね。

――昨年来、原発問題に関する市民との対話型講義を行ってきて、どんな発見がありましたか。
小林 原発推進派の方にも反対派の方にも参加していただいて対話型講義を行い、新たな発見がありました。たとえば脱原発のために熱心に活動してきた方も、意見を異にする人との対話に慣れていないのです。熱心な人ほど、対立する意見の人と理性的に議論する機会がなくなってしまうためです。しかし、双方の方々の協力によって、理性的な対話が実現し結果として互いの理解が深まったと感じています。
市民の方からは、「ふだん1人で考えていることを述べたり、他の人の意見を聞いて同じ考えの人と出会ったり、違う考え方に触れて、考え方が変わったり深まったりした」などさまざまな感想が寄せられています。対話型講義では、議論のなかで意見が変わることも貴重だとしており、そこが対立する意見を競わせる討論(ディベート)とは違うところです。

※全文は『人間会議』2012年夏号(6月5日発売)「みんなで考えるエネルギーの未来」特集でお読みいただけます。ご購入はこちらから。

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『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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