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なぜ不祥事は繰り返されるのか。問題の芽を早期発見する分析手法

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※本稿は連載「ビジネス・エシクスの学び方と活かし方」から掲載紹介しています。
『環境会議』『人間会議』で好評連載中。

「立派な企業理念を掲げる会社がなぜ?」そんな不祥事の背景には必ず「仏(体制)つくって魂(態勢)入れず」がある。見よう見まねで、場当たり的な施策をしている会社、「当たり前のことを当たり前にやる」というメッセージを発しながら、その根拠を社員に示せず、企業理念が形骸化している会社は、不祥事のリスクを抱えることになる。本稿では、ビジネス・エシクスの実践に欠かせない基本概念の整理と、対策を明確化するための分析手法を紹介する。

中村葉志生(ハリーアンドカンパニー代表取締役)

ビジネス・エシクスには「体制=仏」と「態勢=魂」がある

最初に、企業におけるビジネス・エシクス(企業倫理または広義のコンプライアンス)に係る施策を体制(対応の仕組み・制度)と態勢(対応のあり方、実体)とに大別して整理してみよう。「仏つくって魂入れず」に当てはめると、「体制=仏」「態勢=魂」ということになる。

これらの方向性を示すものは、各企業が定める企業理念や行動指針、行動基準等の「指針・基準類」である。この「指針・基準類」を具現化するために、企業では、「体制=仏」と「態勢=魂」の確立を目指し、様々な施策を展開している。

体制(対応の仕組み)の3大施策は「組織体制」「相談制度」「規程」

まず、体制(対応の仕組み)での施策は、「組織体制」「相談制度」「規程」に整理される。

「組織体制」は、コンプライアンス委員会設置・運営、コンプライアンス推進者任命など組織図上の整備、指示命令系統の確認等である。

「相談制度」は、公益通報者保護法の施行に伴う相談窓口・ヘルプライン設置など不正防止のアラーム機能の充実、不正を見過ごさないための担保等である。「規程」は、コンプライアンス規程類、懲戒規程の整備など組織としての取組みであることや取組みの根拠の明示等である。

態勢(対応のあり方)の4大施策は「マネジメント」「教育」「人事」「情報」

続いて、態勢(対応のあり方)の施策は、「マネジメント」「教育研修」「処分・人事評価」「広報・情報提供・催し」に整理される。「マネジメント」は、日常業務の中で行われる自己管理、部下指導のあり方を多少なりとも変えていこうという志向である。

「教育研修」は、階層別集合研修、E―ラーニング、事例検討による職場研修などで意識醸成、知識習得、行動促進をはかっていこうとする志向である。「処分・人事評価」は、厳正な処分、適正な評価などによる人材像の明確化と信賞必罰を志向するものである。「広報・情報提供・催し」は、行動指針冊子作成・配布、法改正情報提供、ポスター作成・掲示などによる取組みの理解促進と周知徹底をしようとする志向である。

体制は態勢を促進し、態勢は体制を実効性あるものとする補完関係にある。「仏(体制)つくって魂(態勢)入れず」になってしまうと、企業理念は「絵に描いた餅」になり、各部門の取組みが実を結ばす、水泡に帰すことになる。したがって、ビジネス・エシクスを実りあるものにするためには、「仏をつくったら魂もいれる」取組みにしなければならない。

体制だけが先行し態勢が伴わないと不祥事は起こりやすい

これらの企業の施策は、これまでの企業風土や企業文化などにより影響され、いま展開されている施策は、これからの企業風土や企業文化に影響を与えることになる。当然、法律の施行や改正、ステークホルダーの意識の変化、期待などといった社会的要請も、これら企業の施策に影響する。ただし、これら企業の施策は、すべてが当初から同時並行的に進行されるというものではなく、状況によって先行、遅行されるものもある。体制と態勢の目的は、当該企業の行動指針類の具現化、すなわち、ビジネス・エシクスの浸透、確立である。

したがって、体制と態勢に係る施策の合わせ技が不祥事防止には求められる。しかし、今日は、態勢の未成熟さがみられる段階で、とりわけ、マネジメントに係る施策の未成熟さが目立つ。「行動指針の冊子も作って配布した。教育研修もそこそこやっている。ただ、日常業務におけるマネジメントは何も変わっていない」というのが現状である。

企業不祥事のパターンを動機と結果で分類する

上記の概念整理を踏まえて、次に不祥事を理解するための分析と対策のための考え方を紹介していくことにしよう。最初に分類のための考え方を紹介する。

人や企業が犯す罪(不祥事)は、犯す罪の発端(動機)と行為(結果)を軸に整理することができる。犯す罪の発端には、故意と過失がある。故意とは、わざとまたは意図的、あるいは結果の発生を認識して行うことである。過失とは、意図はないまたは不注意、注意すべきであるのにこれを怠ることなどによって生じたしくじり、あるいは注意をすれば、ある一定の結果の発生を認識しえたのにもかかわらず不注意によって認識しないことである。ここでは、悪いとは思っていなかった、知るべきことを怠ったなどという理解でもよい。

また、犯す罪の行為では、作為と不作為がある。作為とは、心理的作用に基づいて因果の流れを変えるように行為をすること、不作為とは、心理的作用に基づいて因果の流れを変える行為はしないことである。ここでは、作為の罪とは、することによって問われる罪、不作為の罪とは、しないことによって問われる罪という理解でもよい。

これら二つの軸に基づいて、企業不祥事の類型を整理すると図のようになる。縦軸に不作為・作為の軸、横軸に過失・故意の軸を取る。縦軸は、上にいけば行くほど作為性が強くなるという軸、横軸は、右にいけば行くほど故意性が強くなるという軸である。

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コンプライアンスやビジネス・エシクスのコンサルティングに携わる中村葉志生氏は、「過失・故意、不作為・作為という2つの軸で不祥事を分析、整理することで対策の切り口が見えてくる」という。

例えば、第一象限(右上)にプロットされる不祥事は、作為性が強く故意性が強い罪であり「わざとする・悪いと思いつつする・悪気があってやる」不祥事である。食品製造日を偽装する、私利私欲で不正経理を行うなどといったもの当てはまる。

第二象限(左上)にプロットされる不祥事は、作為性が強く過失性が強い罪であり「わざとでなくする・悪いとは思わずにする・うっかりやってしまう」不祥事である。具体的には、製造過程で誤って違う原材料を入れてしまう、個人情報を電車の中に置き忘れるなどといった不祥事になる。

第三象限(左下)にプロットされる不祥事は、不作為性が強く過失性が強い罪であり「わざとでなくしない・悪いとは思わずにしない・気づかずにできない」不祥事である。具体的には、ある原材料の使用適否の確認を忘れる、契約書面の保管を怠るなどといった不祥事になる。

第四象限(右下)にプロットされる不祥事は、不作為性が強く故意性が強い罪であり「わざとしない・悪いとは思いつつしない・悪気があってやらない」不祥事である。具体的には、正確な製品データを公開しない、職場のセクハラを注意しないことによって訴訟沙汰になるなどといった不祥事になる。

自社の問題を4分類に当てはめると対策のフォーカスポイントが明らかになる

次に、上記の分類を元に、対策を講じるときの考え方を紹介する。自社で不祥事が発覚したとき、または不祥事の芽を見つけたときにはこのような考え方で迅速に手を打つことが望まれる。

第一象限の罪とは「悪いとわかっていながらわざとする罪」であるから、このような罪を無くすマネジメントの視点は「悪いことはしない」を徹底することになる。

第二象限の罪とは「わざとでなく、うっかりする罪」であるから、このような罪を無くすマネジメントの視点は「注意を怠らない」ということになる。

第三象限の罪とは、「気づかない」ことによる罪であるから、このような罪を無くす、小さくするマネジメントの視点は「感性を磨く」でよい。感性を磨いて気づこう、やろうということである。

第四象限の罪とは「悪気があってしない」罪であるから、このような罪を無くす、小さくするマネジメントの視点は「善いことはする」ということになる。

「なんだ、当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれない。しかし、これらができていないと、不祥事につながる、または不祥事が繰り返されることになる。これが、ビジネス・エシクスが当たり前のことに取組む活動であることの所以である。

ビジネス・エシクスを実践に活かすにあたっては、不作為・作為の整理を、やってもダメ・やらなくてもダメという窮屈な捉え方ではなく、まずは、「悪いことはしない」「注意を怠らない」「感性を磨く」「善いことはする」という当たり前のことに取組んでいくのだという真摯で謙虚な姿勢が求められるのである。

中村葉志生
中村葉志生
ハリーアンドカンパニー代表取締役
日本能率協会総合研究所でビジネスエシックス研究センターを立ち上げ、ビジネスエシックス研究室長として、数多くの企業倫理、公務員倫理、コンプライアンスのコンサルティング業務に携わる。現在は、複数の大学の教壇に立ちながら、企業倫理、リスクマネジメント、組織風土改革などに係るコンサルティング活動を世界的な製薬会社、化学品メーカー、食品会社、石油元売り会社をはじめ、日本を代表する電子機器メーカー、総合商社、エネルギー供給会社、輸送機器メーカー、鉄道会社などに展開し活躍中。

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