「オーセンティックであれ」――米フェイスブック マーク・ダーシー氏に聞く

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米フェイスブック グローバル・クリエイティブ・ソリューション・ディレクター マーク・ダーシー氏

インタラクティブマーケティング領域の国際カンファレンス「アドテック東京2012」(ディーエムジー・イベンツ・ジャパン主催)が30日、東京都千代田区の東京国際フォーラムで開幕した。各種講演やブース出展が31日まで繰り広げられる。

30日の初回のキーノート(基調講演)に登壇した米フェイスブックのグローバル・クリエイティブ・ソリューション・ディレクター、マーク・ダーシー(Mark D’Arcy)氏は講演後にインタビューに応じ、企業のマーケティングの姿勢について「言動と行動が一致している、すなわちオーセンティックであることが重要(BE AUTHENTIC)」と強調した。(以下インタビュー本文)

マーケティングもクリエイティブでなければ成り立たない

――フェイスブックに「クリエイティブディレクター」が存在するとは興味深いところです。どんな役割を担っていますか。

アドテック東京に出展したフェイスブックのブース

究極的には、クライアントのビジネスをいかに成長させるかということをミッションに取り組んでいます。クライアントにとってビジネス上の機会はどこにあるのか、一方で何が課題なのかについて掘り下げて考え、ソリューションを提案するのが私の役目です。

我々は「マーケティングパートナー」と呼びますが、世界のトップ300社に入るような大手企業を中心にお付き合いしています。彼らがどんなことを成し遂げたいかを聞き、それをフェイスブックでどう解決できるかを考えます。提案は、場合によってはアプリ制作であったり、出版というアプローチが最適と判断することもあります。

フェイスブックに入社してからは18カ月経ちました。今はロンドンを拠点にしています。

私はもともとコピーライター出身です。広告会社でクリエイティブディレクターを経験したのち、タイム・ワーナーでチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)として、クライアントとともに、ブランドのアイデアづくりや消費者とのコミュニケーションを行うお手伝いをしてきました。

私自身はクリエイティブ寄りのキャリアを歩んできましたが、今やマーケティングもクリエイティブでなければ成り立たないのではないでしょうか。

――キーノートのスピーチで、「今までの広告は100年変わらず続いてきた」との話がありました。従来のアプローチはどのように変わっていくべきと考えますか。

広告(advertisement)のadvert- は「気をそらす」という意味です。人々が何かで楽しんでいるところを、あえて企業の方に振り向かせるのが従来の広告のアプローチでした。それは今でも有効な手法のひとつであり、すぐに何か別のものに取って代わることはないでしょう。

もっとも、いまは変革期にあります。企業がいかに消費者一人ひとりとつながるか、彼らにとって有用性のある存在になれるかを考えるべきときに来ています。

消費者同士の対話に企業も参加させてもらえるか

その背景としては、世界中の人がメディアを持つことができ、アイデアやコンテンツを容易に発表できる時代になったことが挙げられます。「個人がクリエイターになれる時代」とも言えるかもしれません。受け取ったメッセージに即座に反応ができて、そこから対話が生まれる。個人と企業との対話がそこら中で始まっています。以前は、個人はただ与えられたものを吸収する、受動的な存在でした。

マーケターはそうした時代の変化を読み取って、一方的に発信するだけでなく、消費者に耳を傾ける姿勢が大切です。また、そうしたことを続けているブランドが今後も成長していけるでしょう。

英国にボディフォーム(Bodyform)という生理用品ブランドがあります。ある男性がこのブランドのフェイスブックページに、CMの内容を批判する投稿をしました。「生理用品のCMは爽やかなイメージを訴求しているけどそんなのはウソ。女性にとっては最悪の経験だ。僕の彼女もそう」といった内容で、それはあっという間に広がってたちまち8万ものシェアに拡大しました。

それに対して、ボディフォームはまじめで画一的な返答に終始するのではなく、架空の女社長がユーモアを交えながら投稿の内容を認める内容の動画を公開しました。そしておわびした上で「本当のことを言ったら『引く』でしょ」と問いかけたのです。

そうした対応をすることによって、企業もお客さまの間の対話の一部になることができました。企業と消費者という対面の関係ではなく、お客さまと一緒になってブランドを楽しむような、エンゲージメントの一環となります。私はキーノートで「ディナーパーティー」と表現しましたが、ディナーパーティーに一緒に参加して、楽しさを共有するような場をつくっていくことも可能なのです。

シェアしたいと思われる広告をつくる

――テレビや新聞などのメディアのあり方も変わるべきとお考えですか。

私は前職で新聞の広告ビジネスにかかわってきましたが、既存のメディアも広告モデルを変えてきています。もっと面白く、人の関心を惹きつけるような手法を求めてさまざまな試みをしています。

ただ、その面白さというものが、広告なりブランドを通じて見た人がその友達とシェアしたい、人とつながりたいと思えるものかどうかが課題です。「人が何を欲しているんだろう」、「何を見たいんだろう」、「どうつながりたいんだろう」といったことを考えることです。

テレビをやめてフェイスブックにしよう、という話ではありません。人がつながるためにはどうしたらいいのだろうかと考えることが先にあるべきです。そのときフェイスブックが最適か、と問われれば、最適ではない場合もあるでしょう。

実際、テレビキャンペーンをフェイスブックでサポートするような事例も増えていますし、使い方次第です。トータル視点で最適なマーケティングプランを組み立てればいいのです。

フェイスブックの特長のひとつに実名制(=authentic identity)がありますが、ブランドとしても、リアルな人生を送っている人とつながっていくことができる時代です。一方の消費者はこのブランドとつながりを持ちたい、そのブランドが好きです、といったことを表明しています。このブランドいいよね、と積極的に言ってくれる人はリアルでも口コミを行い、フェイスブック上でもシェアしている。ブランド側としては、そのようにシェアしたいと思える商品なりコンテンツをつくっていって、会話をどんどん広げていくことで、フェイスブック上でもブランドが拡張していく、という流れをつくれるところがフェイスブックの強みです。

広告と経営の不一致はすぐ見破られる

――キーノートでは、次世代のマーケティングのコンセプトとして6つのアプローチを提案されました(注)。そのうち、「BE AUTHEMTIC(オーセンティック)」について詳しくお聞かせください。

広告の世界では、少し前であれば、「こんないいことがあるんですよ」と素敵なストーリーを語ればいいとされてきました。今はそれだけでは不十分です。言ってることと実際の行動が違っていたらすぐに消費者に伝わってしまうからです。個人も企業の情報にすぐアクセスできますし、その情報を広めることが容易にできます。

言動と行動が違う人が信用されないように、企業も広告と経営が違うとすぐに見破られてしまいます。「オーセンティックであれ」ということは、言ってることと実際の行動を同じにしていきましょう、ということです。昔であれば、それが多少違っていても内情まで分からなかったかもしれません。その頃とは時代が違うのです。

――フェイスブックの日本の展開についてお聞きします。ご自身のようにクリエイターの視点からクライアントの課題を聞いて提案をしていく人材を拡充するなど、対応を強化していく予定はありますか。

クリエイティブストラテジーを立てる人材を置けたらいいですね。これまでの日本のチームはブランド、広告会社とのコミュニケーションでいい働きをしていると思いますが、より強化できればいいと思います。

――それを判断する権限はないということですか。

まだお声が掛かっていないので(笑)。でも、もっと頻繁に東京に足を運べるようにしたいと思います。(談)


(注)講演中にダーシー氏が提案した6つのアプローチは「BE AUTHENTIC」「BE USEFUL」「BE ENTERTAINING」「BE RELEVANT」「BE TIMELY」「LISTEN」。



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