端末や販売サイトが充実 出版社各社が電子化に注力
昨年7月、楽天が日本向けの電子書籍専用端末「kobo touch」を発売。さらに、同10月にアマゾン・ドットコムの電子書籍専用端末「キンドル」が日本で発売されたことで、端末や販売サイトが充実してきた。
今後はこれらの専用端末をはじめ、スマートフォン・タブレットPCの普及もさらに進むことが予想されるため、出版の電子市場が拡大しそうだ。
こうしたことを背景に、電子出版に注力する各出版社の動きが活発化している。最近の動きでは、集英社が発行するファッション誌全てを電子版でも発売することを発表した。
電子化するのは、女性ファッション誌の『Seventeen』『non・no』『MORE』『BAILA』『MAQUIA』『SPUR』『LEE』『Marisol』『éclat』、男性ファッション誌の『MEN’S NON-NO』『UOMO』で、同社のファッション誌11誌。販売開始は5月からの予定で、電子版は、誌面をPDF形式でデジタル化したもの。価格は印刷版の70~80%で販売されるという。
また昨年末、ハースト婦人画報社が、全国208の書店で購入した書籍と同タイトルのデジタル版を無料で閲覧できる企画を実施。19点の書籍とムック本を対象にして行った。同様の取り組みは、昨夏同社が出版する一部雑誌を対象に行われており、実店舗のすべてで企画を実施しなかった店舗に比べ、売上が伸びるという実績があったことから、規模を拡大して実施したという。同社では、1月にも同様の取り組みを行った。
読者に利便性 購読の後押しにも
4月1日に創刊された『DRESS』(gift)でも先のハースト婦人画報社とほぼ同様の取り組みがなされている。
同誌は、富士山マガジンサービスが運営する雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」の機能を活用して、デジタル版を無料で付けた。また、創刊から30日間限定で、新規定期購読価格を30%オフ、加えて初めて「Fujisan」を利用したユーザーはさらに500円オフにするなどの特典も設けた。
こうした施策が奏功し、同誌は3月31日時点で定期購読者1200人、予約冊数1万5000部を突破。出だしが好調だ。
「紙+デジタル」という形での定期購読を創刊号から提供したのは女性ファッション誌としては初めて。定期購読を続けている限り、創刊号からの全ての号がデジタルアーカイブとしてパソコンやスマートフォン、タブレットで閲覧できる。
紙とデジタルをどちらか自由に選択できるのは、読者にとって利便性は高い。富士山マガジンサービス代表取締役社長の西野伸一郎氏も「読者はいろいろなシチュエーションで雑誌を楽しみたいと思っている。女性誌に限って言えば、重さも結構あるので、デジタルで場所を選ばず読むことができるのは、大きなメリットだし、購買のフックにもなる」と話している。
また、富士山マガジンサービスでは、先に挙げた集英社のファッション誌全11誌のデジタル版の受付けも4月1日より開始している。
電子書籍市場が拡大 「土壌はできつつある」
調査会社のインプレスR&Dによると、2012年度の国内電子書籍市場は713億円。昨年は629億円だったことから、約85億円増加した。さらに、16年度は2000億円と予測している。
一方で、前出の西野氏は、「電子化、デジタル化について、増えているという意味では増えている。しかし、電子化して売れる雑誌、書籍は全体からしたら多くはない。また、いわゆる雑誌に適した『レプリカ』(PDFなど)、テキスト主体の書籍に適した『リフロー』(EPUB)などの形式の問題、技術的な試行錯誤は今も行われている最中で、本当の意味での電子化が進むのはもう少し先」と冷静に分析している。
とはいえ、「電子書籍専用端末の普及によって、土壌はできつつある」とも西野氏。利用者が増えれば、それにあわせて技術やサービスも向上していくだろう。