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ブレイクスルーを生み出す方法② コロンブスの上司

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木村健太郎(博報堂ケトル)、磯部光毅(磯部光毅事務所)という2人のクリエイター/アカウントプランナーによる本書は、「何かを解決する時に、自分たちはどうやってブレイクスルーしているのか」、そんな疑問から生まれました。これまで広告の仕事で培った知見と経験をベースに、ビジネスや日常生活のたとえ話や事例を盛り込みながら、「ひらめきの原理」となる思考ロジックを独自に分析し、見える化。この本を読み終えたとき、誰もが「ブレイクスルーの思考法」を手に入れることができます。


「① 「正しい答え」にこだわって、臆病になっていないか。」はこちら


木村健太郎(博報堂ケトル クリエイティブディレクター/アカウントプランナー)×
磯部光毅(磯部光毅事務所 アカウントプランナー/コピーライター)

ある日、コロンブスは上司にこんなプレゼンをしました。
「ヨーロッパから西方かなたに航海していけば、アジアにつくはずです。
 たくさん黄金を取ってきますから、予算をください。」

「西に航海してアジアについた前例はあるのか?」
「いえ、ありません。」
「前例がないなら、ダメだ」

コロンブスは、翌日再びプレゼンしました。
「実は地球は球体です。だからいずれはアジアにつけるはずです。」
「それは100%そうなのか?」
「いえ、ですが、おそらくそうであろうと言われております。」
「証明できないなら、ダメだ。」

コロンブスは、その翌日再びプレゼンしました。
「イタリア人の学者が、地球が丸いことを数学的に証明しました、航海に行かせてください!」
「なぜ、イタリア人の学者の言っていることなら正しいと言えるのか。」
「古の賢人、アルキメデスはシシリー島生まれ。ダ・ビンチもイタリア人です。」
「つまりイタリア人はみな優秀なので、信じてよいのというのだな。それならお前に予算を与えよう。」

そして上司はこう付け加えました。
「ただし、黄金がどれくらい存在するかを事前に調査してからだ」

これは、この本の第5章で取り上げているたとえ話です。
みなさんが一緒に働いている上司や取引先にも、こんなコロンブスの上司のような頭の固い人がいるのではないでしょうか。

西へ航海し続ければ、きっとアジアにたどり着けるはずだ、ジパングは黄金の国、大量の黄金が手に入るはずだ、という「勇敢な」提案をコロンブスがしているのに、その上司ときたら、前例はあるのか、証明はできるのか、事前調査はしたのかといった、前回のコラムで書いた「正解のない課題」に対する典型的な「臆病な」思考で返してきています。こういう上司がいるから、意思決定が遅れたり、無駄な資料を徹夜して作ったりしなきゃいけないことってよくありますよね。

しかし、実は上司には上司の言い分があります。21世紀に生きている僕らは過去の歴史を知っているので、コロンブスが最終的に、アメリカ大陸にたどり着いたことを知っていますが、当時は彼の提案はかなり荒唐無稽に映ったはずです。宝くじを買うような確度の低いアイデアに聞こえたかも知れません。彼の上司は膨大の予算を投資する決裁をしなければいけない立場ですから、100%とはいわずとも、ある程度確度を高めてから意思決定したいと思ったのでしょう。

実はこの2人、立場の違いもさることながら、頭に思い浮かべたロジックそのものに大きな違いがあるのです。すべてのひらめきには、それが勇敢なひらめきであれ、臆病なひらめきであれ、必ず考えた筋道、つまりロジックがあり、それを明らかにしたのがこの本です。

コロンブスがひらめいたアイデアは、「飛距離」のあるロジックです。
「地球が球体であるという学者がいる」というジャンプ地点から、「西へ航海し続ければ黄金が手に入るはずだ」という着地点までの間には、飛距離の長いジャンプがあります。もしそれが正しければ、大きな成果が手に入る反面、それが本当であるという「確度」はそんなに高くありません。
(実際、たどり着いたのはアジア大陸なくアメリカ大陸でしたし。)
これがいわゆるクリエイティブジャンプと呼ばれる思考のロジックで、この本では「森の思考法」と名付けて6つの技術に体系化して学べるようにしています。

一方で、上司は「確度」を求めています。彼が欲しいのは「飛距離」ではなく、確度の高い、正解のあるロジックなのです。この本ではこれを「街の思考法」と呼んで2つの技術に整理しています。

つまり、この話をまとめると、コロンブスはアイデアの「飛距離」をベースに話をしているのに、上司はアイデアの「確度」をベースに話をしている。ここに飛距離と確度のすれちがいが生じていたことになります。
我々の普段の仕事でも何か課題を解決するためには、このふたつの違いを理解して上手に使い分けたり組み合わせたりすることがとても大事なのです。

イラスト:川辺圭

さて、この話では、途中からコロンブスが作戦を変えています。
いくらアイデアの「飛距離」があってもそれだけでは提案は通らないことを悟ったコロンブスは、「イタリア人の学者が言う学説は信用できる」ということを前例を挙げて説得することで、論点を「確度」に変えています。アルキメデスやダ・ビンチといった都合のよい前例をつみあげているだけのあまり出来のよくないロジックでしたが、すこしでも確度を高めたい上司の心を動かすことには成功しました。

最終的には上司に「黄金量の事前チェック」というナンセンスな条件をつけられるというオチでこの話は終わっていますが、これに対してもきっとコロンブスは無理やりにでもその数字を計算して、アイデアの確度を高める方策を考えたに違いありません。

このたとえ話は、提案者と決裁者の対話になっていますが、何か課題を考えるときには、私たちの頭の中や、チーム内でも起こっているものですよね。

この本では、うまくいったブレイクスルーの事例だけでなく、うまくいかなかったり、立ち往生してしまうパターンのたとえ話やアイデアの事例、実際のキャンペーンの事例をたくさん紹介しています。
なぜ思考が立ち往生してしまうのか、どこで立ち往生してしまったのか、そしてその時にどうやって突破すればいいのかをわかりやすく解き明かしたつもりです。
(木村健太郎)


木村健太郎(きむら・けんたろう)

博報堂ケトル 代表取締役共同CEO/エグゼクティブ クリエイティブディレクター/アカウントプランナー
1969年生まれ。一橋大学商学部卒業後、1992年博報堂入社。戦略からクリエイティブ、PR、デジタルを越境した統合的なプランニングスタイルを確立し、2006年博報堂ケトルを設立。従来の広告手法にとらわれない「手口ニュートラル」というコンセプトで、アイデアを沸かして世の中を沸騰させるコミュニケーションを提案・実施している。

磯部光毅(いそべ・こおき)

磯部光毅事務所 アカウントプランナー/コピーライター
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)へ転属。2007年4月独立、磯部光毅事務所設立。戦略畑、クリエイティブ畑両方での経験を活かし、単なる広告開発に限らず、経営戦略、商品開発、コミュニケーション開発、情報戦略立案から、コピーワークまで、全バリューチェーンを横断的にプランニングすることを得意とする。


【「ブレイクスルーを生み出す方法」バックナンバー】