佐藤可士和とマネージャー 佐藤悦子が語る、「ブランドアーキテクト」の仕事とは(後編)

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3月12日に、青山ブックセンター本店にてサムライの佐藤可士和氏とマネージャー 佐藤悦子氏のトークショーが行われた。今年に入って発行された『佐藤可士和さん、仕事って楽しいですか?』(宣伝会議刊)と『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版』(誠文堂新光社刊)がテーマ。2人揃ってのトークショーは、『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』初版刊行時以来、5年ぶりとなった。その模様を2回にわたってお届けする。
(司会は『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』の構成担当・山田祐規子氏)

※前編はこちら

クリエイターの力を発揮する環境を整えるのが、マネージャーの仕事

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――『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版』で可士和さんにインタビューさせていただいた際、お2人の関係をパリ・ダカに例えていたのがとても印象的でした。

佐藤可士和(以下 可士和):「悦子さんとどうやって仕事を進めているんですか?」とか、「奥さんに管理されて嫌じゃないんですか」とよく聞かれるんですが(笑)、マネージャーとクリエイターの関係を正しくわかってもらうことはなかなか難しい。そのためにわかりやすいたとえとして使っているのが「パリ・ダカ」なんです。僕がドライバーで、彼女がナビゲーターとして隣に座っている。僕がアクセルを思いっきりベタ踏みにして、目の前の道に集中している間、彼女が隣で地図を見てくれている、というイメージです。

サムライではいま、多くの仕事がものすごいスピードで進んでいます。一瞬でも道から目をそらしたら事故が起きてしまうかもしれない。そのとき、「もう少し行くと○○があるから気をつけたほうがいい」とか、「ここからは平坦だから平気だ」と横からタイミングよく情報をくれるナビゲーターの存在はとても重要。僕はそれを聞いて、安心して運転に集中することができるんです。

――悦子さん、そのたとえを聞いてどう思いましたか?
佐藤悦子(以下 悦子):上手いなと思いました(笑)。“アクセルベタ踏み”は本当にここ2、3年実感していて、速度は加速するばかり。初版が出たタイミング(5年前)では、まだほとんどの主要な打ち合わせに私も同席し、情報を共有していました。ですから初版のインタビューでは佐藤は「お互い向き合っていて、自分が見えない頭の後ろ側を相手が見てくれているので、360度の視界が手に入る」と言っていたんですけれども、今はパリ・ダカのたとえの方がしっくりとくる。5年前とはまた関係性は変わったと思います。

――そのスピード感で進んだ5年間ですけれども、新装版のインタビューの中で、可士和さんは「この5年で安定感が増した」ともおっしゃっていましたね。クリエイティブワークを行う際の可士和さんが求める安心感、これは何でしょうか?

可士和:クライアントと交わす契約がきちんとできているかどうか、といったことですね。とても大きなプロジェクトを手がけているので、契約条件のことから何から自分一人で全部見るのは不可能なわけです。きちんと話がまとまっていないまま進んでしまって、途中でやめることになったりしたら困りますよね。「この仕事をここで先に進めてしまっていいのか」といった不安をなくしてくれること、さっきのパリ・ダカのたとえで言えば、運転するマシンがちゃんと整備できているかに近いかもしれません。安心して全速力で踏み込める、そういうことがすごく重要なんですよ。

悦子:サムライだけの損失ならまだしも、仕事にコミットいただいている建築家やコピーライターの方々に対してこのプロジェクトは保証できるのか?というところまで詰めてからでないと。クライアントから前のめりの要望をどんどんされることも多いので、それに応えられる環境や体制をつくっておくということですね。

質疑応答 ~ 佐藤可士和さん、悦子さん、質問してもいいですか?

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質問者1:状況が変わってあきらめなければならないこともあると思うのですが、そういうとき、どうしますか?

悦子:あきらめるとか妥協する、というのは自分の考え方次第だと思っています。大きなことから小さなことまで、考え方を変えたことや、昔のやり方から変えたことはたくさんあります。ですが、それらを「あきらめた」とか「妥協した」とは思っていなくて、状況も時代もクライアントの仕事も日々変わっているので、そこに対応して自分も変化することが大事だと思っています。そのためにいい方法を選んでいくということでしょうか。

質問者2:デザイナーです。可士和さんは、情報を整理して本質を導き出すとおっしゃいますが、“理論的には正しいし説明もつくけれど、アウトプットとして出てきたものが面白くない”ことが自分はよくあります。可士和さんは、そういうことはありますか?

可士和:いい質問ですね。ロジカルに考えていったらアウトプットが面白くない…ということは、実際あります。自分で面白くない、魅力的じゃないと思ったら、その案はやめますね。それで、逆にインパクトのあるアウトプットから考えてみよう、と切り替えてみます。こういうのができたら面白い、というアイデアが形になってきたら、そこから逆算してコンセプトメイキングしてみる。すると結局、最初に考えていたようなロジックとうまくつながったりするんですよ。同じロジックであっても、表現の出口は一つではないということですね。

悦子:そういう過程にある、“佐藤自身もまだ疑問を持っている状態のアウトプット”を見せてもらうことはよくあります。そういうときに、「つまらないかも」「ときめかない」と正直に言うと、本人もうすうす感じているので、機嫌が悪くなります(笑)。ただそこで、検討した別の案はどうかとか、その別案をクライアントに見せられるレベルまでブラッシュアップして一緒に持っていってはどうか、といったやりとりをする中で、最初に70点にしか見えなかった案が、ディテールが精査されて一気にK点越えした素晴らしいものになる、という体験も何度もしてきました。そういう過程を共有することもマネージャーの仕事かなと思います。デザイナー同士では、逆に言いづらい場合もあると思うので。。

質問者3:お互いを漢字一文字でたとえると何ですか?

可士和:うーん……難しいですね。…「強」、かな?(会場笑)

悦子:誤解のないように言うと(笑)、2人で出張帰りにジムに行ったときに「僕はこんなに疲れているけど悦子は平気」という話が出て、トレーナーの方に「悦子さんは身体が強いですから、一緒にしない方がいい」と言われたことがあって。そういう意味です。

私は何だろう…。「前」、ですね。彼は前しか見ていない、前しか興味がないから。

質問者4:悦子さんには、サムライのスタッフをどう育てるか。スタッフのパワーアップをどう考えるのかをお聞きしたいです。可士和さんには、“佐藤悦子のつくり方”をお聞きしたい。女性が下支えするというかつての形ではなくて、悦子さんがこのようにはつらつと、自分の力を発揮できている理由はなんですか?普段こんな言葉をかけている、といったことがあれば教えてください。

悦子:いままではサムライ=佐藤可士和と考えてやってきました。まずサムライのブランドを確立させないと、スタッフが育っていくような仕事もできませんから、そのために全力で走ってきた10年間でした。建築の世界でよく、誰々さんの弟子でこの人が育って、そこからさらに誰が出て…という系譜みたいなものが語られますが、今後10年は、サムライも「ここで誰々が育った」と言われるような存在を目指したいと思っています。昨年から、作品を賞に出品するときも、クリエイティブディレクターの佐藤可士和としてではなく、実際にその仕事のデザインを担当したスタッフの名前で出品するようにもなりました。

可士和:佐藤悦子のつくり方ですか…作ってないんで書けないですね(笑)。基本は好きにやってもらうのが一番だと思っています。僕も悦子も、自分が思ったように好きにできるのが一番パフォーマンスが上がるタイプなんです。意見が多少違うことがあったとしても、「こういうふうにやりたい」と言われれば、じゃあそれでやってみなよ、と答える。こうして2人でトークショーをするのは5年ぶりですが、今日は女性のお客さまが前回よりだいぶ増えている印象を受けました。悦子がやっていることが伝わっているんだなと思って嬉しく感じました。

――これにて、トークショーを終了させていただきます。どうもありがとうございました。

(プロフィール)
佐藤可士和
1965年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。博報堂を経てサムライ設立。国立新美術館のシンボルマークとサイン計画、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン、グローブライド、今治タオルのクリエイティブディレクション、NTTドコモ「FOMA N702iD/N703iD」のプロダクトデザイン、明治学院大学のブランディングプロジェクト、「カップヌードルミュージアム」や「ふじようちえん」のトータルプロデュース等を手がける。ADC賞、毎日デザイン賞ほか受賞多数。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社)、『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』(日本経済新聞出版社)、『佐藤可士和さん、仕事って楽しいですか?』(宣伝会議)、『佐藤可士和の新しいルールづくり』(聞き手:齋藤孝/筑摩書房)など。

佐藤悦子
1969年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、株式会社博報堂の営業局、雑誌局を経て1998年より、外資系化粧品ブランド「クラランス」「ゲラン」のPRマネージャーを務める。2001年アートディレクター・佐藤可士和のマネージャーとしてサムライに参加。以来、大学や幼稚園のリニューアル、数々の企業のCIやブランディング、商品および店舗開発など、多方面に広がりを見せるサムライのクリエイティブにおいて、マネージメント&プロデュースを担当。アートディレクションの新しい可能性を提案し、世の中のあらゆるシーンを気持ちよく変えていくプロジェクトの一翼を担っている。2007年に男児を出産。働く女性のロールモデルとして、雑誌や講演会などでも活躍。著書に『「オトコらしくない」から、うまくいく』(清野由美氏との共著/日本経済新聞社)、『佐藤悦子の幸せ習慣』(講談社)、『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版』(誠文堂新光社)など。

佐藤可士和とマネージャー 佐藤悦子が語る、「ブランドアーキテクト」の仕事とは(前編)はこちら

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