コラム

楽天大学学長が語る「EC温故知新」

なぜ半額セール中に、値引きなしの高額日本酒100本が7時間で完売したのか?

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(1)自分が売りたいモノ2.0

 長らくEコマースの世界に身を置いていると見えてくる「流れ」があります。その一つが「店舗さんが売っているモノ」の変遷です。
 多くの店舗さんは、「自分が売りたいモノ」、すなわち、ネットショップ立ち上げ時点での取扱商品を売るところから始まります。これを「自分が売りたいモノ1.0」と呼ぶとします。
 お店が軌道に乗ってくると、売上アップを目指して、「お客さんが欲しがるモノ(=売れるモノ)」を売るようになるお店が増えてきます。
 しかし、お客さんの要求に必死で応えながら「売れるモノ」だけ売っていると、佐々木さんが感じたように「何のために仕事をしているのか」がわからなくなってきます。
 その結果、「お客さんに喜んでもらうために自分が売りたいモノ」を売るように変わっていきます。これを「自分が売りたいモノ2.0」と呼びたいと思います。  
 こうなると、売り手も買い手も造り手も、みんなハッピーになれるようです。
 今回の事例では、メルマガに「日本酒の初心者は買わないでください」と書いてありました。「富士山に自分の足で登らずにいきなり山頂に運ばれても感動が得られないのと同じだから」と。
「売上を伸ばす」のではなく、「日本酒のある生活の楽しみを伝える」というスタンスを貫こうとするからこそできるワザといえます。

(2)メタ物語を共有する

「メルマガ」は「メールマガジン」の略です。Eコマース草創期に、「いかに読者に楽しんでもらえるか、工夫を凝らさないと読んでもらえないよね」という発想のもとに生まれてきたものです。
 しかし、昨今のEコマースの世界は「単なるチラシメール」で溢れています。ここ10年のEコマース成長期にあっては、そこまで時間・手間・頭脳コストを使わなくても、セールをやってメールを送れば売れてしまう状況があったことによるところが大きいと思います。
「あさびらき」の例をはじめとする「効果的なメルマガ」には、1つの共通点があります。
 それは、「メタ物語の共有」です。
 ふだんのセールやイベント、新商品など、一つひとつの出来事(物語)を「単発」として告知するだけなのが「チラシメール」です。
 これに対して、「あさびらき」のメルマガは、「日本酒を売るお店の、日々のドタバタストーリー」が書かれており、そのなかで随所に「日本酒のある生活の楽しさを広めたい」という想い(ミッション)が語られます。そのミッションを遂行する人たち(あさびらきスタッフ)の「連続する物語」が共有されているからこそ、今回の「雫酒の爆発」が起こっているといえます。読者が「今回の佐々木店長は本気だな」とわかるわけです。
 このように、物語が二重構造(2階層)になっているときの、上位の階層の物語のことを「メタ物語」と呼びます。
 同じ文面で「雫酒」を紹介するにしても、チラシメールで「単発」に送るのと、「メタ物語を共有できている関係」で送るのとでは、まったく結果が異なるのです。

(3)あり方がやり方を生み出す

「雫酒」の事例を表面的に知って、「上得意客にセグメント配信すれば売れる」というふうに解釈する人がいるかもしれません。というか、むしろそういう人のほうが多くいるように思います。
 しかし、上述のように、佐々木さんがこの方法をやろうと考えたのは、純粋に「ウチのお店のメッセージに強く共感してくれているお客さんにこそ飲んでもらいたい。メルマガを開封するタイミングが遅くて買えないということがあったら申し訳ない」という想いからです。

 あり方から考えると、自ずとやり方が見えてきます。
 あり方が違う人の「やり方だけをマネ」しても、同様の結果は生まれません。

 私はこれまで、楽天の店長さんたちの横のつながりを増やすための活動をやり続けてきているのですが、結局は、あり方が似ている店長さん同士が仲良くなって、お互いに刺激し合える仲間になっていきます。その仲間での会話から、たくさんの「やり方」が生まれてきているのです。
 ちなみに、佐々木さんは、「究極の対面販売」スタイルのあり方を目指す「同志」が最も多い店長さんの一人です(仲山調べ)。

※この連載では、「EC温故知新」というテーマで、「自動販売機型のネットショップにはできない売り方」でお客さんを魅了する事例などを中心に紹介していきます。

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