「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」(2)――福里真一

11月1日、CMプランナー・福里真一さんの著書「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」(宣伝会議刊)が発売になります。本書は月刊「宣伝会議」での2年にわたる連載に新たに書き下ろし原稿を加えて刊行されるものです。発売に先駆け本日から3回にわたり、書籍の一部をご紹介していきます。
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【連載】「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」――福里真一
1、はじめに
2、第1回「電信柱の陰からおずおずと語りはじめる」(こちらの記事です)
3、第2回「幼稚園では藤棚の柱の陰だった」
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(1)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(2)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(3)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(1)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(2)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(3)

第1回「電信柱の陰からおずおずと語りはじめる」

福里真一(ふくさと・しんいち) ワンスカイ CMプランナー・コピーライター

福里真一 著
定価:本体1,680円(税込)
2013年10月30日より順次発売

うーん、どうなんでしょうね、こういう連載とかって。

そんなに、みなさんのためになるようなことが書ける気もしませんし、正直、面倒くさいですし。あ、すいません、正直すぎましたか。

とにかく、この、連載をもつ、とかいう状況が、なんか、自分にまったく似合ってない気は、します。

でも、広告界も厳しいわけですよ。何が厳しいって、いわゆるクリエイターと呼ばれる職種の人々が、個人名で仕事をするようになってきまして、要は、指名されないと仕事がない。

そうすると、知られてないと指名されませんから、ある程度有名になることが求められる。そういうのが、みなさん、また、うまいんですよね。

たとえば、箭内道彦さんという人がいますね。すごくないですか、あの人。

とにかく根本的に私とは違う種類の人間なんですよね。以前ご本人に聞いたことがあるんですが、箭内さんて、高校時代、バンドをやっていたこともあって、自宅の前にファンが集まりすぎて、自宅に帰れなくなったこともあるらしいんですよ。

人気者ですよ、人気者。うらやましいと言うか、なんと言うか、まあ、うらやましいですよね。

この間も私が打ち合わせでシンガタという会社にいたら、ふらっと箭内さんがやってきたんですが、その瞬間にふだんは陰鬱な(?)その会社の雰囲気が、ぱっと明るくなりまして。デスクの女性たちも、見たことがないような笑顔を浮かべてまして。(あ、すいません、シンガタの方々にこの部分は読ませないでください。まあシンガタはたぶん宣伝会議は定期購読してないと思うので、大丈夫だと思いますが)。

で、そういう箭内さんみたいな人気者を、この連載のタイトル通り、電信柱の陰から、うらやましく思ったり、無関心を装ったりしながら、じっと見ていた、というのが、私なわけです。

そんな私が、箭内さんだけでなく、他にもキラキラした人がうじゃうじゃいる広告クリエイター市場で、戦っていかなければならない。ある程度、目立って、指名されていかなければいけない。

…無理です。でも、無理だ無理だと言っていて、餓死するわけにもいかないので、そのための第一歩として、この連載を引き受けたわけです。自分に鞭打って。

≫次ページに続く 「要は、売名行為ですよ、売名行為!…」


【連載】「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」――福里真一
1、はじめに
2、第1回「電信柱の陰からおずおずと語りはじめる」(こちらの記事です)
3、第2回「幼稚園では藤棚の柱の陰だった」
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(1)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(2)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(3)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(1)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(2)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(3)


要は、売名行為ですよ、売名行為!だめなんでしたっけ、売名行為って。

でも、売名させていただくぶん、みなさんに少しは役に立つようなものを書きたいと思っています。

…とも思おうかとしましたけど、正直、あんまり思ってないんですよね。

というのも、宣伝会議って、頭からおしりまで、なにかのためになるとか、役に立つとか、そういうことを目指した記事ばかりじゃないですか。

あまりにもそういう記事ばかりだと、読者のみなさまも疲れてしまうんじゃないかと思いまして。そういうのじゃないページが少しだけあってもいいんじゃないかとも思っているんです。

しかし、人間って、どれだけがんばり続けるんでしょうね。サントリーの缶コーヒーBOSSの「宇宙人ジョーンズ」シリーズというCMで、こういうナレーションを書いたことがあります。

この惑星の住人は、
何万年もの間、働き続けてきた。
サルのままのんびり暮らしていた方が、ラクだったと思うのだが。

やはり、自分がいつか死ぬ、という認識を持ちながら生きる、という特殊な性質が、サルであることをやめさせ、人間を異常にがんばらせてしまうんでしょうね。

「たった一度の人生だから」というキャッチフレーズは、陳腐なようであっても、なかなか抵抗できない力をもっています。

だからこそ、あなたのように何かを求めていま宣伝会議を読んでいる人もいるし、私のように何かを求めて(?)面倒くさがりながらもこうして連載記事を書いている人もいる。

あのツイッターというものを、私はやってないんですが、妻がやっているので、時々のぞかせてもらうんですが、(その行為自体、電信柱の陰的ですが…)あれを見ていると、本当にがんばる気満々ですよね、人類。

誰々の話を聞いて元気をもらった、とか、これは何かのヒントになると思った、とか、そういうつぶやきだらけではないですか?ホモサピエンスというより、ホモポジティブネス。それが人類。

そして、この宣伝会議という場は、広告界におけるそういうホモポジティブネスの牙城とも言えるかもしれない。

「電信柱の陰」という場所は、決してそういう人類のホモポジティブネスぶりを、からかったり批判したりする場所ではありません。

むしろ基本的には「みんなえらいなー」と感心し、時には積極的に電信柱の陰から身を乗り出して自分も祭りに参加したりもする。

でも、次の瞬間には、電信柱の陰にぱっと引っ込んで、様子を眺めるのに徹したりもする、そういう場所です。なんかこう書いてると、ただのずるい人みたいになってますが…。

そういう電信柱の陰が、宣伝会議の片隅にひっそり、ある、ということはいいことであるような気もしますが、どうでしょう。

うーん、でも本当は別にそんな場所なくてもいいような気もしますね、自分で言い出しておいてなんですが。どうなんでしょう。

甚だ歯切れが悪くてすいませんが、とにかくそんなような連載にしていけたらな、と思っています。(あ、もちろんタイトルにある、企画術についても、次回以降ちゃんと書くつもりです)

まああくまでも、宣伝会議さんが、来月もこの連載を続けてくれた場合、ということですが。
(次回に続く)

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【連載】「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」――福里真一
1、はじめに
2、第1回「電信柱の陰からおずおずと語りはじめる」(こちらの記事です)
3、第2回「幼稚園では藤棚の柱の陰だった」
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(1)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(2)
特別対談「企画術は本当に役立つのか?」(3)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(1)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(2)
特別対談「企画に向いているタイプとは?」(3)

福里真一(ふくさと・しんいち)ワンスカイ CMプランナー・コピーライター
1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。いままでに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」など。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを、数多くつくりだしている。

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