ユニークさばかりを議論する企画会議のよくある間違い
廣田:今、僕が仕事の中でやろうとしているのも、コミュニケーション活動のリアルタイム化なんです。ものづくりに比べれば、コミュニケーションの方は、わりとPDCAをこまめに回していくことができそうだな、と。最近は毎朝7時にクライアントの会社に行って、昨日、実施したソーシャル上での活動の結果を全て解析した上で、その日何をすべきかを決めています。
田川:その仕事には、気合いが必要ですね(笑)
廣田:明らかに気合いが必要なんですけど(笑)、でも僕は天才クリエーターではないので、データに基づいてアイデアを構築していこうと思っているんです。実際、毎日PDCAを回し続けていくと、やはり「当たった」という瞬間が出てきます。
田川:PDCAを回し続ける効能は2つありますよね。ひとつは仮説が段階的に着実に洗練されていくのでクオリティが自動的に上がっていくということ。もうひとつは、新しい仮説に挑戦しやすくなること。
何が正解かが全くわからない場合でも、質の違う仮説を複数パターン、手早く試せるようになる。PDCAを回し続けることで仮説をつくる、つくった仮説を磨き上げるという、垂直と水平の2つを同時に進めていくことができるようになると思うんです。
廣田:PDCAという言葉からは「フィードバック制御」になり、徐々に収束していくというイメージを受けるのですけど、今の話でいう「垂直」の部分、つまりはクリエイティブになるためのPDCAという考え方があるということですね。
田川:そうです。ただし、僕らが対象にしているのは、ムービングターゲットなので。
廣田:常に変わりつづけている。
田川:はい。変化の激しい今の時代、動いている的に自分たちも動きながら合わせていこうとしているようなものですから、つまりは永遠にゴールすることはない。
廣田:そういう意味ではまだまだ広告・コミュニケーションの世界のPDCAはぬるいなと思います。一方で、ひらめきみたいなクリエイティブジャンプの必要性は最後まで残ると思っているのですが。
田川:残りますね。
廣田:エンジニアの方はロジカルに物事を考えていく印象がありますが、一方でデザイナーの仕事には、どこかでクリエイティブジャンプが必要かなと思うんですけど。
田川:プロダクトの魅力をひも解いていくと、デザイン的な要素が寄与するところが非常に多く、そこではクリエイティブジャンプが核になっています。しかし真に魅力的なプロダクトには、その前提として「不満のゼロナイズ」が必要です。
廣田:不満を感じる要素がないということですか。
田川:プロダクトを実際に使ってみて、不満を感じる部分って結構ありますよね。ですから長く売れ続けているプロダクトのほとんどが、不満を感じさせる要素が取り除かれているんです。
でも不満要素はないのだけど、魅力的ではない、売れているのだけど、魅力がないプロダクトもあります。例えば輪ゴム。輪ゴムはすごい魅力があるから、売れているわけではないですよね。
で、ここで、よく勘違いが起こるんですけど、クリエイティブジャンプでいけるところっていうのは、魅力のアップサイド側の話だと思うんです。そして、これさえあれば、売れるかといえばそういうわけではなく、不満のゼロナイズをできない限り、売れることはないんです。
廣田:なるほど。
田川:不満要素を排除する際にもPDCAは役立ちますし、またクリエイティブジャンプの結果、出てきたアップサイトの複数「魅力」のどれを選択するかに際しても、ABテストを繰り返し、検証するというプロセスが役に立ちます。
よく企画会議とかで起きる間違いは、「ユニークな企画にしよう」と、とにかく「ユニークさ」についてたくさん話をしてしまうこと。そして、どれが一番ユニークなのか、どれが市場で受入れられるユニークなのか、まったく検証しないまま、話を続けているというケース。さらに不満をなくすための努力についての議論がごっそり抜けていて・・・、という状況です。
廣田:耳が痛いですね、広告業界は特にユニークさの議論ばかりしてしまうので。ただ最近は一部のプランナーが、例えばコールセンターのオペレーションだったり、PR戦略のデザインだったり。ユニークネスでびっくりさせることばかりを考えるのではなく、受け手に気持ちよく情報を受け取ってもらえる、コミュニケーションしてもらえるにはどうしたらいいかを統合的に考え始めています。
つまりは、「コミュニケーション」という言葉が指し示す領域は、決してCMだけではなくて、より広大な領域があることに気づき始めている人たちがいるんです。そういうところに入っていくと、コミュニケーションにおいても不満をなくしていくという視点が必要になってくるなと思います。
【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
■takram design engineeringの田川欣哉さんに聞きに行く
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(前編)
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(後編)
■Sumallyの山本憲資さんに聞きに行く
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(前編)
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(後編)
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・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(前編)
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