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『爪と目』作家・藤野可織さん「文字としての姿かたち、音感も大切にタイトルをつける」――私の広告観(4)

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文章の書き方については、できる限り個性の表れない、簡潔な文章を心がけています。あと、重視しているのが時制と人称。どういう時間的立ち位置から書くか。どんな順番で情報を出すか。どの人称の視点から書くか――

ここが一番苦労するというか、何度もやり直すところですね。それさえ決まれば、わりとすぐに書き上げられるんです。

書きたいことの” 塊 ” はある程度決まっていて、その出し方・見せ方をいろいろと組み合わせながら考えています。特定の型にはこだわらず、作品ごとに最もふさわしいやり方を選びたいので、いろいろな型を身に付けたいと思っています。そのためには、やはり本を読むことが必要です。

読むスピードが速くないので、大した量ではありませんが、今でも読書は欠かしません。最近読んだものの中で面白かったのは、ジュノ・ディアスの短編集『こうしてお前は彼女にフラれる』(新潮クレスト・ブックス)。外国人作家の作品をよく読みます。でも、それも特にこだわっているわけではなく、たとえばラブコメも好き。元気がなくなった時、つまり小説が書けなくなった時に、読み返したりしています。

物質として美しい本がいい

「物質としての『本』」の美しさを大切にしている藤野さん。表紙のビジュアルや挿画については、基本的には編集者やデザイナーに一任するが、自分の意見・要望も伝えるようにしているという。『爪と目』は、藤野さんが好きな画家・町田久美さんのイラストが表紙に採用された。

本を読むことももちろん好きですが、私は「本」という物質そのものも好きなんです。内容は読んでみないと分かりませんが、その前に、まず物質としてキレイであってほしいと思っています。その本自体が物質として美しければ、万が一、内容がイマイチだった場合も、それはそれで納得できるような気がして。「この本キレイやし、仕方ないか」って…(笑)。

ですから、自分の本もキレイであってほしいです。ただし、デザインの勉強をしてきたわけではないし、知識もありませんので、基本的にはプロの方に全面的にお任せします。表紙のイラストや挿画については、消極的には私の意見・要望をお伝えするようにしていますが。

「この画家が大好きで、この方の作品を表紙に使えたら、いちファンとして嬉しい」という具合です。意見を言っておきたいだけで、それは通っても通らなくても良いんです。単に、自分の本なので、個人的に好きなイラストレーターや写真家の作品が使えたら、ミーハー心が満たされるという…。

「この小説だったら、あの人の作品が合うんじゃないか」などと自画自賛しながら、あれこれ想像して楽しんでいます。画家の町田久美さんの作品が大好きで、そのことを担当編集者の方に伝えていたら、『爪と目』で本当に使ってもらえて嬉しかったですね。

逆に、『おはなしして子ちゃん』では、私が何人か候補を挙げていたイラストレーターさんではなくて、装丁家の名久井直子さんが提案してくださった方の作品が採用されました。本当に素敵な装画を描いてくださって、いまや私はそのイラストレーターさんの大ファンです。

このように、ビジュアルはプロの方のお力に頼って感激ばかりしていますが、タイトルは私の領分ですのでこだわっています。短編など、最初からタイトルが決まっている場合も時にはありますが、多くの場合は6~7割ほど書いた時点で仮のタイトルを決めます。

書き終えてあらためて再考することもあれば、意外と仮のタイトルをそのまま使うことも多いです。作品全体を一言で説明するようなタイトル、あるいは、その小説のひとつの「解答」になるようなタイトルを、できる限りシンプルな言葉でつけようと心がけています。

印象的であってほしいので、文字にして書いてみた時の姿かたちや、音感も大切にしています。考えて、書いてみて、口に出してみて、しっくりきたものを選びます。こんな感じが良いというのを、言葉で説明するのは難しいのですが…。『爪と目』は、「爪と目」か「目と爪」か迷ったのですが、最終的には、口に出したとの響きの面白さで前者に決めました。

「宣伝会議」2014年1月号紙面より抜粋

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