カンヌは「新しいビジネスとクリエイティブ融合」の途上――博報堂 安藤元博さん(生活者データマーケティング推進局・局長/兼博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンビジネスセンター・センター長)

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博報堂 安藤元博さん(生活者データマーケティング推進局・局長/兼博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンビジネスセンター・センター長)

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クリエイティブのイベントであるカンヌに私が今年、参加をしたのは、マーケティングやメディアビジネスとクリエイティブをいかに融合させるべきか、という問題意識を日頃から持っていて、カンヌでその方向性が見えるのではないかと思ったからです。

ちなみに、私はこの両者をつなぐ鍵のひとつは「新しいデータ(アクチュアルデータ/ビッグデータ)」だと考えており、その点から、カンヌでデータやテクノロジーについてどう取り上げられるのかを聞きたいと考えて来ました。

これまでの変遷については正確にはわかりませんが、今年のカンヌは明らかに「データ」が意識的に語られているな、というのが私の第一印象です。

連日のメイン会場でのセミナーでは、スピーカーたちから口々にデータという言葉が出てきました。また、「フォーラム」という日替わりのテーマで開かれるセミナーの2日目は「Data、Insight、Strategy&Creativity」のタイトルのもとに行われ、カンヌでもデータやテクノロジーとクリエイティブの融合が大きな関心になっていることがわかります。

ただ、この「データ」や「テクノロジー」は、少なくともアワードの受賞作の周辺で語られているものをみると、あくまで「表現」に直結するところで使われているようです。

これに対して、エコノミー全体でおこっているのは、アドテクノロジーやマーケティングテクノロジーのもとで生み出されるデータを活用し、広い意味でのメディアビジネス、新しいコミュニケ―ションビジネスを生み出そうとする動きです。

そういう意味で、ここではデータやテクノロジーとクリエイティブの融合についての、ある限定的な側面がとりあげられている、という印象を受けます。

カンヌの会場内には、セミナーに登壇するVIPたちのメッセージが張り出されているのですが、そこでWPPのSir Martin Sorrellが「Advertising is not an art anymore; It’s a science. I believe data informs great creativity.」というメッセージを寄せています。

また登壇者の一人、コカ・コーラのWENDY CLARK氏(President,Sparkling and Strategic Marketing,North America)は、講演内で自社の戦略の変遷について「Social Media(Plan Engagement)」から「Social Marketing(Touch Point Engagement)」、さらに「Social Business(Buiness Engagement)」へ、という言い方をしました。

私は、彼らはデータやテクノロジーを狭い意味でのクリエイティブ、つまり表現そのものに融合させるということだけではなく、クリエイティブとデータの融合のもとにビジネス、コミュニケーションビジネスそのものの構造を変える、という意味でとらえているのではないかと感じます。

カンヌはよく言われるように、トラディショナルな広告クリエイティブを表彰するアワードから、サイバーやモバイル、ダイレクトなどの新しい動きを取り込んで大きく成長していています。いま、受賞作のシャワーを浴びながら、その圧倒的な魅力も感じます。

ただ、これらのクリエイティブは、大きくはやはり既存のメディアビジネスという暗黙の前提、見えない土台の上で展開されているのではないか、という感じがします。

実際には、既存のメディアビジネスを取り囲むように広い意味でのコミュニケーションビジネスという領域が急速に成長していて、それが従来の土台を侵食しつつある。

そして、そういうエコノミーの変化の中で、コミュニケーションのありようを大きく変えるテクノロジーやデータの活用が、マーケティングモデルやビジネスそのものを創造している。

広く世の中で求められているクリエイティビィティとは、そのような領域でのものでもあるのではないでしょうか。

前述のコカ・コーラのWENDY氏は「We want to be in all places where our customers are. We’re not about a one-time event.」という言い方もしています。

一人ひとりの生活者を理解し、常に彼らに働きかけるための基盤となるデータ活用が重要になり、その流れの中でマーケティングサイエンスやシステムなどが必然の要素になる。セミナーでの先進的な広告主やプラットフォーマ―の言葉の端々から、彼らがそうした意識を根底にもっているのは明らかです。

ただ、受賞作品だけを見れば、そうした意味でクリエイティブとデータやテクノロジーを融合させようという潮流はまだ、感じられません。

もちろん、データだけからは人を動かすアイデアや施策はうまれません。

課題はシンプルです。マーケティングテクノロジーの進化に正面から向き合い、新たに生じる生活者データを活用する、その覚悟のもとにクリエイティブを融合し、広い意味での、新しいコミュニケーションビジネスを生み出す、ということです。

たまに、データかヒューマンか、どちらが重要か、といった問題設定をしているセミナーもあったようですが、まったく不毛です。生活者が何を求めているのか、これから何を求める可能性があるのか、今までなかった新たな価値をどのように生みうるのか、マーケティングの観点からデータとクリエイティブは高度に融合すべきなのです。

そういう前提にたったとき、カンヌで長年積み重ねられてきたクリエイティブの力が、より一層、輝くのだと思います。

今後、カンヌが、マーケティングテクノロジーやアドテクノロジー、アクチュアルデータ/ビッグデータとどのように近づき、それを取り込んで変容していくのかに、注目していきたいと思います。

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