「制約」を「触媒」にするには
つまりある制約を新たに設定することで、これまで所与の条件となっていた(意識できていなかった)別の制約を無効化することができる。右に足かせを着けるとそこに注意が行き、もとからあった左の足かせを暫し忘れてしまうのだ。このとき新たな制約は、「触媒」として機能している。
このような様式は「発想の有限設計」とも言えるだろう。
制約が触媒として機能する場面は世の中に偏在する。あらゆる物理的な道具や文化的な作法が、何かしらの型とルールを持つから、当然といえばその通りだ。例えば書き言葉の言語運用において筆記ツールがその構成を左右する。
思考のスピードと筆記のスピードの釣り合いを、どのレベルで合わせるか、という観点だ。流れるようにキーボードで言葉を紡ぐと、長文が生まれやすいかもしれない。ペンや携帯電話はスピードの他スクリーンや紙のサイズが作用して、例えば短文を刻むバイアスが掛かる。
それぞれのツールが持つ制約を特性として理解し有効活用できれば、その制約はむしろ触媒として機能する。逆に、理解なしにツールを用いてしまうと、あらゆる作法は足かせに終始する。
自らの発想は、すべて何らかの「足かせ」を纏った状態でか生まれている、と客観視できるか。その上で、足かせを脱ぎ捨てられるか。そして単発の発想に終わらず、それを育て続けられるか。これに意識的でありたい。
注釈:Someone’s Shoesという名前について
最後までお読みいただいてありがとうございます。少しだけ、語句についての解説を。
- put oneself in “someone’s shoes”
英語で put oneself in someone’s shoes と言うと、誰かの身になって、立場になって考える、という意味になります(以前、『イン・ハー・シューズ』というタイトルの映画がありましたね)。
- 思考の作法 “SS series”
前回のSpark Shadowingが「個人の思考をなぞる」作法であるならば、今回のSomeone’s Shoesは「集団の思考をなぞる」という作法になります。どちらも本質的には同じで、自らが無意識的に纏ってしまっている制約を客体化する、という目的意識のもと生まれています。そしてどちらも、頭文字が ”SS” となっています。
これは思考(S)の作法(S)シリーズであり、且つ「自己を補完する」ための(Self Supplementary)ツール群です。両方とも私の呼ぶ所の ”SS Series” のバリエーションです。
以上
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