ビッグデータロマンと、地球滅亡の間

日本代表のユニフォームを着た、ガッキー似のお姉さんは、
ニッコリと笑って、恥ずかしそうに、ぼくにこう告げた。

 

 

「Tポイントカードは、お持ちですか?」

 

え、あ、いや。
持ってるけど、そ、それがどうかしましたか?
ファミリーマートで、はじめてこう言われたとき、ぼくは何のことだかわからず、そう答えてしまった。

 

「全国のファミマで『Tポイントカードはお持ちですか』と店員に言わせよう」と、考えた人はすごい。

たぶんこの人、非難を受けるかもしれない。
でも、かっこいい。

あなたにはわかりますか、このロマンが。

 

今回は、こういった「ビッグデータロマン」の話をします。

 

まず、「Tポイントお持ちですか」と言わせることで、
ものすごい広告投下量と同等、それ以上の効率をほぼ無償で得ている。
この暴力的広告効果だ。
これによって、Tポイントカードは、一気に貨幣価値としてのメジャー感を作り上げた。
もはや、ジンバブエドルよりTポイントのほうが価値あるんではないか。

Tポイントカードにとって、ファミリーマートと提携するということは、大商いをもたらしたはずだ。なぜならもともとTポイントカードの目標は、ポイント大好きなぼくら日本人たちのお買い物データを集めて、データビジネスをすることにあるからだ。

 

次ページ 「たとえば、ぼくは最近」へ続く

たとえば、ぼくは最近、娘の影響でディズニー/ピクサーのDVDばかりレンタルしていて、かつファミチキばかり食べている。
この情報だけでも「ディズニーファミチキ」を出せばよさそうだ。「ベイマックスまん」でもいい。

「ディズニーツムツム」に、新ツムとしてファミチキが出てきたら、迷わず課金する

 

ファミマとDVDレンタルだけではない。データベースには、Yahoo IDに基づくあなたの日頃の閲覧履歴だってある。
Tポイントの提携先は、こんなにあるのだ。

そして、こうした情報は、2014年11月1日の発表
しれっと「提携先に提供します。提携先だけなんで安心してネ」ということになった。

 

つまり、これら提携先は、ぼくらの趣味嗜好をビッグデータから拾って、商売に活用できるようになったのだ!

 

 

な……なんだってー!!

 

なんという、しれっと、であろうか。
かっこよすぎる。覚悟が違う。

 

「Tポイントカードはお持ちですか?」とファミマ全体で言わせるようになったいきさつには、真偽のほどは定かではない。ぼくが信憑性高い、と思う説は、
「だって言わなかったら、『何も言われなかったから、使えないと思っていた』と苦情が発生して困るでしょ」
という殺し文句である。

 

その結果、日本全国のファミマ店員が
「あのう、こんなこと聞くのは本当に申し訳ないんですけど、持ってませんよね、Tポイ……いやほんとごめんなさいっ!……ち、ちなみに、お使いになりますか?」
「いや大丈夫っす」
「で、ですよね!面倒ですもんね。794円になります。
 
あっ、肩にゴミが。あっ、茶柱」
などという態度を取らざるを得なくなったわけだ。

 

こんなの絶対おかしいよ。

 

おかしいけど、本当にかっこいい。
こういうグレーゾーンにもっと寛容になるべきなのだ、日本の企業は。

 

次ページ 「同様に「ディスプレイ広告」も超クールだ。」へ続く

同様に「ディスプレイ広告」も超クールだ。

 

このアドタイにも入っている、Googleアドセンスなどのディスプレイ広告の発想とは、
ようは「あの四角の中だけGoogle」なのだ。
ホムペというのは、別サーバー間であまり情報がとれたり、持ち込めないように、セキュリティやらポリシーなんやらがけっこうある。

 

じゃあ、ここだけGoogleにしちゃえばいいじゃん、と。
わかりやすいのは < iframe > というタグ。矩形の中に別のページを呼び出すことができるタグだ。あの中だけがGoogleになることによって、あなたがGoogleで検索した内容や、Gmailでのやりとりをベースにした「あなたが欲しそうな情報」を解析して、
「へいお待ち」と出している、というわけだ。

 

ちなみに、Facebookの【いいね!】ボタンも、同様のしくみだ。
あれもiframeである。

たとえば【いいね!】ボタンの履歴から、白人かアフリカ系米国人かを判別できる確率は95%だと言われている。

ぼくらのネットでの個人情報や趣味嗜好は、こんなふうに彼らに筒抜けなのだ。

 

こんなの絶対おかしいよ。

 

けど、

これこそがサイバーパンクではないか。

 

ぼくは、GPS情報も、心拍数も、どれだけエロいこと考えているかも、所持金も、もう全部オープンにしちゃっていい派だ。んもう勝てません、こんなこと考える人たちに。
ぼくたちは、この先の人生も、ググらざるをえない。
人生、いい年になると、表裏があるのも、正直めんどくさい。
楽になれるよ。隠しごとはよくないよ。脱いでみなよ。ほーれほれ。
もうこうなったら、自分が公明正大に生きるしかないのだ。

 

さあ、うそはやめて。

自分を信じて。

心を解き放って。

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中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)
中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

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