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行動経済学でわかる、非合理的な消費者のホンネ―人は「失う恐怖」に弱い

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株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第4号(2015年8月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

過去の経験や直感、その時々の気分によって、人が下す判断というものは、いとも簡単に変わってしまうもの。人間とはとても非合理的な生き物なのです。そんな非合理さを理解できれば、あなたの会社のマーケティングは、もっと効果的なものになるかもしれません。

人は「失う恐怖」に弱い

人は“理屈”に乗らない

「50%の確率で5000円が当たります。同時に50%の確率でハズレも出ます。その場合2000円支払ってもらいます」–と言われたら、あなたはこの賭けに乗りますか?

これ、経済的には“お得”な賭けですよね。なぜなら50%の確率で5000円もらえることは2500円の価値があり、支払う2000円より多いのですから。しかし、多くの人がこの賭けに乗るという「経済合理的な」判断をしません。それは、「2000円失うこと」の心理的なインパクトが「50%で5000円手に入ること」よりも大きいからです。

行動経済学で有名な「プロスペクト理論」によれば、人は、同じ変化の大きさであれば、「プラスに振れる」ことよりも「マイナスに振れる」ことに、より敏感に反応します。そして、それを避ける行動をとる「損失回避性」があることが多くの実験から分かっています。

「多少損する可能性もあるかもしませんが、ほら、これってトータルでお得でしょ?」という“理屈”に人は乗りにくいわけです。もちろん“得”が“損”に比べて圧倒的に大きければ、この限りではありません。また、起点となる値が大きいほど、人の感度が低くなっていく、といった傾向も研究から分かっています。先の例で言えば、何もしなければ1円も払わなくて良いものを、下手したら2000円払うという「ゼロからマイナス2000円」への変化は嫌われます。一方、すでに3000万円の家を買うことが決まっており、そこからさらに払わなければならない2000円への感度は低いと言えます(3000万円が起点となる)。これらは感覚的にも納得できるのではないでしょうか。

「失うこと」を感じさせない

ここから言えることは、「計算上、損はないはずだから」という理屈をこねるよりも、「損すること」を見せない、感じさせないことが、相手の心のハードルを下げる重要なポイントの一つであることです。

「ゼロ円」という表記によって「実質的な支払いが生じない」ことをアピールしたり、初期費用を最小限に抑え、会員期間中に少しずつ回収するプログラムなども、損失回避性をうまく緩和するためのアプローチと言えます。クレジットカードでの支払いも、「その場での損失を意識させない」という、購入者の損失感を和らげる効果が働いているかもしれません。実際の支払いや損失があるかどうかも大事ですが、これは心理の問題であるため、当事者にそれをいかに意識させないか、がポイントです。

同じ大きさの「失う」であっても、その損失感を低減させる技術として、先の住宅購入の例のように、まずは支払額を一定の大きさまで引き上げて、そこを起点とした損失の振れ幅を小さく感じさせることも、テクニックとして考えられます。高級レストランでコースメニューを注文したお客さまに「“ついでに”あと一品どうですか?」というのと、同じ単価でもその一品を単独で注文いただくのとでは、心理的ハードルが違うでしょう。

まずは「損失」を感じさせないこと。
損失を感じざるを得ないとしても、損失感を最小限に抑えることなど、テクニックは身の回りに転がっています。もしかすると、あなたの心理や行動も、周到な計算の上で操られているかもしれません。

「これは計算上どうなのか」というアプローチに加えて、「これは、相手にとってどう感じられるのだろうか」という視点も併せ持てば、バランスのとれた意思決定や戦略策定を行うことができます。

柏木吉基(かしわぎ・よしき)
データ&ストーリー 代表
多摩大学大学院 ビジネススクール客員教授
横浜国立大学・亜細亜大学 非常勤講師

日立製作所入社。MBAを取得後、2004年日産自動車へ。海外マーケティング&セールス部門などを経て2014年独立。グローバル組織の中で社内変革のパイロットを務め、経営課題を解決。これらの実績に基づいた「デジタル時代にこそ求められる、課題解決型思考」を研修や実務サポートの強みにしている。新著に『それちょっと、数字で説明してくれる?と言われて困らない できる人のデータ・統計術』。

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