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コラム

『編集会議』の裏側

若手編集者たちが“編集2.0”を考える ~『編集会議』番外編~【後編】

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“良いものをつくれば売れる時代の終焉”は本当か

佐藤:ところで、朽木さんはなんで転職したんですか。

朽木:LIGでは編集長を任せていただき、本当に貴重な経験をさせてもらいました。ただ、たとえば原稿への赤入れにしても、編集長の能力以上のものにはならないじゃないですか。そう考えたときに、もう一度きちんと編集やライティングについて勉強したいと思ったんです。いまの時代、それこそ個人でもネットで目立つことはできますが、発信者には中身が問われていると思うんです。その中身があるかといわれれば、いまの僕自身にはないと思っているので、きちんと基礎を身につけたいなと。

佐藤:なるほど。僕も未だに記事を書くことには怖さを感じます。まだ編集者として4年くらいですが、毎日、無気力感に襲われています。Webの記事は後から修正できると思いがちなので、紙ほどにはクオリティの高さが求められていないように思うんです。僕はWeb編集者のキャリアしかないのですが、Webしか知らないというのは怖いし、いつかは紙の編集も経験して基礎の基礎をきちんと勉強にしたいなと思っています。それと、ロールモデルになるWebメディア発の編集者っていないんじゃないですか。編集者としてのロールモデルとしてよく挙げられるのは、決まって紙メディア出身の編集者なんですよね。それもWebメディアの課題なのかなと。なんだか人生相談みたいになっちゃいましたけど。

稲着:自分も、何よりマスメディアの人に対するリスペクトはすごくあります。何十万、何百万人の人の目に触れるメディアを通じて、時代や文化をつくってきたというのは本当にすごいことだなと。自分の場合は業界の慣習や常識にとらわれていない分、新しい発想がしやすい存在であるという自負はありますが、良いコンテンツをつくるノウハウはマスメディアから学ぶべきものが多いと感じます。Webってそもそも、アーキテクチャからして良質なコンテンツを生成する構造になっていないと思うんです。Webには毎日触れてはいると思いますが、しっかり覚えているものって皆さんどの程度ありますか? やっぱり雑誌の方がグっとくるコンテンツって多いのではないでしょうか。

佐藤:Webだと、“読者”と“ユーザー”がごっちゃになっていて、純粋な“読者”が見えづらいということもありますよね。

稲着:なるほど。Webは“ユーザー”は多いけども実は“読者”は少ないのかもしれない。雑誌は一つのものを買って帰ったら、それが期待はずれであったとしても違う雑誌をすぐに手に取ることができない。だから雑誌はちゃんと悩んで買われ、結果としてちゃんと読まれます。一方でWebはシームレスに他メディアへ移動できてしまう分、その記事がどのメディアのものなのかというのはわからなくても良い。クリックさえされれば、PV数が実績になるため、極論タイトルで釣れてしまえば良いわけです。そう考えると、Webには本当に良い記事をつくり続けるインセンティブが構造的にない。自分は、その辺りをWebの課題だと認識しているので、いまは「Synapse」を通じて、良質なコンテンツを生成するアーキテクチャをWebに実装できないかを実験をしているんだと思っています。だから、書籍化前提のサロンであったり、テレビメディアのファンサロンであったり、自分自身がちゃんとマスメディアにも越境していけるようなコンテンツをプロデュースする企画家でなくてはいけないな、と常々考えています。

朽木:Webの記事は出す・出さないの判別のハードルが低いですし、そもそも何が良いコンテンツなのかという基準や定義がわかりづらいという面もあるように感じます。

佐藤:結局、良いコンテンツかどうかを決めるのは読者やユーザーです。それを知る上でも読者やユーザーとのコミュニケーションは不可欠だと感じます。

稲着:自分はそもそも“良いものをつくれば売れるという時代が終わった”というのはそうではないんじゃないかとも思っていて、逆に良くないものを売る技術が進化したんじゃないかと思うんです。

朽木:むしろ良くないものが売れるようになったから、良いものが埋もれてしまい、結局目立つものが売れてしまうということですね。いやぁ、身につまされますね…。

佐藤:耳が痛いです…。

朽木:ということで、今日の話で興味持ってくださった方には『編集会議』をぜひ読んでもらいたいですね。


edit-spinout

『編集会議』2015年秋号
9月16日発売 定価1300円
好評発売中


特集「新時代に求められる“編集2.0”」
「良いものをつくれば売れる(読まれる)」という時代が終わり、読者・ユーザーに「どう届けるか」という“コミュニケーションを編集する力”が問われるなか、編集にはどのようなアップデートが求められているのか。編集を再定義しようとする考え方や取り組みを通じて、これからの編集のあり方について考える。

・KADOKAWA×宝島社×LINE「新時代の編集者の採用基準」
・オンラインサロンに見る、体験をサービスとして設計する編集力
・若手編集者が語る1.0→2.0の間

特集「コンテンツマーケティングを生かすオウンドメディア戦略」
—100社に聞く オウンドメディア運用の実態
—あのオウンドメディアの“中の人"の運用術 他

特集「本の最前線はいま 書店会議」
—出版界の勢力関係を解き明かす 出版界カオスマップ

連載「書く仕事で生きていく」
—スポーツライター 木崎伸也「本田圭佑の取材秘話」他


佐藤慶一(さとう・けいいち)
編集者。1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。学生時代にNPO法人グリーンズが運営するウェブマガジン「greenz.jp」のライターインターンやコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業での編集アルバイト経験を経て、講談社「現代ビジネス」エディター。ブログ「メディアの輪郭」を運営。2015年7月、現代ビジネス×サイボウズ式によるブランデッドメディア「ぼくらのメディアはどこにある?」を立ち上げた。

稲着達也(いなぎ・たつや)
早稲田大学政治経済学部出身、シナプス株式会社COO兼プロデューサー。Synapseリリース後、兼務でドワンゴにて新規事業開発、統合サービスデザインに従事し、2015年シナプスに本格復帰。これまでにファッションショーイベントや討論イベントのプロデュース、ストリーミング番組企画、Webキャンペーンや書籍出版等、媒体問わず様々なコンテンツの企画・編集に携わり、現職。

朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)
編集プロダクション・ノオト所属の記者、編集者。大学時代にフリーライターとしてキャリアをスタートし、卒業後は2014年4月にメディア事業をおこなう会社に新卒入社。同年9月より編集長として企画・編集・執筆を担当し、2015年8月に退任。現在は品川経済新聞記者などのほか、Yahoo!ニュース個人などで執筆、PAKUTASOのフリー素材モデルとしても活動している。