企業の存在意義を打ち出すマーケティングも重要
——消費者の嗜好性やライフスタイルが多様化する中で、広告コミュニケーションの企画や実践もこれまで以上に難しくなっています。
土橋:商品について興味を持っていただく以前に、企業に興味を持っていただく必要性が高まっていると感じます。商品の良さを伝えるだけでなく、企業姿勢に共感していただく。企業自体が信頼できるのか、共感できるのかという軸は東日本大震災以降、強まっている傾向だと感じています。そこで必要なのは、どんな思いを持って商品を開発し、世の中に送り出しているのかを伝えること。当社では、現在、モータースポーツ活動がクルマづくりの進化、自動車産業の発展に不可欠であるという創業者の思いを受け継ぎ、もっといいクルマを開発しようと、すべての開発・製造工程を基礎から変える試みを行っています。同時に、試乗会やレーシングカーの同乗体験などのリアルなイベントを実施し、クルマを好きになってもらうための取り組みも行っています。トヨタとして、新しいカーライフも提案していきたいですね。
名久井:古風な考えだと「料理はお母さんがつくるもの」といったイメージがありましたが、当社のお客様センターには、50~70代くらいの男性から、お問い合わせをいただくケースが多く、料理をする男性が増えていることを実感しています。そこで以前とは目線を変えて、最近は男性が料理をするという部分をかなり意識したCMづくりを行うようになりました。一方で、企業としての存在を見失うことのないよう原点に立ち帰った試みも行っています。味の素は、100年以上前に日本人の栄養状態を改善したいとの思いから創業されました。このことを開発のスピリットに入れ、私たちのからだは私たちが食べたものでできていることを理解していただくべく「Eat Well , Live Well.」というメッセージをお客さまにも発信しています。
土橋:当社も、クルマ離れしたお客さまに対して、クルマが主語にならないお客さまに寄り添ったコミュニケーションをすることが必要だと考えています。しかし、どこまで行っても、トヨタの使命であり実業である良いクルマをつくり続けることからは逃げられない。お客さまに寄り添うコミュニケーションと、企業としての意思を示すようなコミュニケーションの両輪が必要です。
——今後、広告や宣伝など、クリエイティブな部門は、社内でどんなミッションを担っていくべきとお考えでしょうか。
土橋:スマホの台頭でお客さまの購買行動がすっかり変わりました。現在は、カタログ情報やユーザーレビュー、見積シミュレーションまですべてスマホで完結してしまいます。そして販売店にいらした時には、どのクルマにするかがすでに決まっている状態です。われわれは、そうしたお客さまに向き合い、変化に対応をしていくために、広告戦略をはじめ、あらゆるマーケティング施策の根本を見直しているところです。
名久井:現在、日本では、あらゆる広告で成果を出すのが困難な時代だと言われています。われわれもたくさん失敗を重ねて来ましたが、パウダードレッシングの「トスサラ」などは、CMをオンエアした途端に売れすぎて、休売という状況が起きました。なぜそうしたことが起きたのかはまだ分析の途中ですが、デジタル時代において、相対的に広告効果が下がっていると言われるCMを介してお客さまに商品を知ってもらう、買ってもらうという道筋は、その手法次第ではないかと実感しています。
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