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ヤングカンヌPR部門 日本代表への道「審査員はココに惚れる!」ポイント伝授します

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ソリューションにクリエイティブジャンプを!

井口:着眼点はよくても、日本のPRパーソンって真面目すぎるというか、ソリューション案が当たり前な感じのことが多いですよね。去年の日本代表選考では、特にPR会社の人のアイデアが、こぢんまりとしてしまったというか、小さくまとまっちゃっていた印象があります。

嶋:確かにそうでしたね。でも最近は、PR自体の仕事も変わってきていますよね。プレスリリースや記者発表会といった「規定演技」にとどまらず、クライアントから課題が設定されて、その課題に対するソリューションをPR的視点で発案し、提案する仕事が増えている気がします。

井口:その経験を生かした企画が見たいですね。

嶋:やはりソリューションには、クリエイティブジャンプがあったほうがいいですよね。カンヌはアイデアのクリエイティビティを非常に重視しています。「その手があったか!」という驚きや、気づきのある企画に、審査員は、つい惹きつけられてしまいます。

井口:昨年のカンヌライオンズPR部門でゴールドを受賞した「NAZIS against NAZIS」はまさに、その手があったか、ですよね。ネオナチが街をデモすると、1メートル歩くごとに市民から寄付がされ、ネオナチを離脱したい人を支援する団体のために使われる。ネオナチはデモをやめても、続けても、自分たちの活動にとってマイナス効果を生んでしまう、という秀逸なキャンペーンです。ひねりが効いていますよね。

嶋:同じくゴールドの「Proud Whopper」も良かった。米国のバーガーキングが期間限定で発売した「Proud Whopper」は、包み紙がLGBTの象徴であるレインボーカラー。客は訝しがるけど、中身は通常のワッパーと同じで、包み紙を開くと「We are all the same inside(私たちみんな中身は同じ)」と記載がある。LGBTに対する平等を謳ったキャンペーンですね。アイデアはシンプルですが、その分、メッセージが強くなりますよね。

フィジビリティも整っているのが、プロ!

井口:アイデアにクリエイティビティが必須といっても、想像というか妄想じゃ、ダメですよね。フィジビリティ(実現可能性)もきちんと詰めてほしい。

嶋:面白いことをやろうという人に、いつもつきまとう問題ですよね。僕は、フィジビリティは企画の上でとても大切なことだと思っていて、「こんなことできるといいな」というレベルで止まっていたら、それはまだ、アマチュアの発想だと思うんですよ。クライアントに信頼されるビジネスをやっているプロフェッショナルとしては、フィジビリティは避けて通ってはだめですよね。

井口:昨年の日本代表選考でも、2次審査のプレゼンでは、かなりフィジビリティについてツッコミましたからね。

嶋:フィジビリティの限界を知っている人は強いですよ。過去、誰もやったことがないような、新しいことを切り開いてきた人たちって、規制や法令のことに精通していますよね。例えば、東京都の条例ではプロジェクションマッピングは100㎡までしかできないとか、ヘリコプターを飛ばしたいけど航空法上、飛ばせるのか、とか、景品表示法や広告条例なんかも知り尽くしていますよね。自分で警察に行って、道路使用許可をとった経験があったりとかね。きちんと「限界」を知っている人こそが、これまでも新規性のあるプロモーションを作ってきたと思いますよ。

井口理 氏

井口:カンヌの本選では、実際に行われたキャンペーンを審査するので、すでにフィジビリティをクリアしているものだけを見るわけですよね。カンヌはアイデアの世界と言われているけれど、きちんとプロたちは、アイデアを形にしてフィジビリティ問題を突破している。そこに対するリスペクトは必要ですよね。ヤングカンヌの場合は企画プレゼンまでの勝負なので、アイデアはもちろんですが、フィジビリティがしっかり詰まっているほうが差異は出るし、説得力が増しますよね。

嶋:審査員がPRパーソンなら、間違いなく気にしますしね(笑)。

井口:ではこれで、「PR部門審査員はココに惚れる!」について、まとまりましたね。

嶋:課題に対する視点を鋭く、ソリューションにクリエイティビティを、そして、フィジビリティを無視しない。この3つを押さえることが、PR部門日本代表への近道であり、世界で戦うための秘訣、ということですね。

井口:ぜひこの3つのポイントを網羅する企画で、僕たち審査員をメロメロに、いや、唸らせてほしいですね。

(聞き手:伊澤佑美)

嶋浩一郎(しま・こういちろう)

博報堂ケトル 代表取締役社長 クリエイティブディレクター/編集者
93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局配属。企業の情報戦略、黎明期の企業ウェブサイトの編集に関わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクター。02年~04年博報堂刊行「広告」編集長。04年本屋大賞立ち上げに関わる。現NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションによる企業の課題解決を標榜し、クリエイティブエージェンシー「博報堂ケトル」を設立、代表に。09年から地域ニュース配信サイト「赤坂経済新聞」編集長。11年からカルチャー誌「ケトル」編集長。2012年下北沢に書店B&Bをヌマブックス内沼晋太郎氏と開業。11年、13年、15年のカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの審査員も務める。

井口理(いのくち・ただし)

電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長/チーフPRプランナー
1990年電通PRセンター(現・電通パブリックリレーションズ)入社。企業のコーポレート・コミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界誌「Holmes Report」が主催するGlobal SABRE Awards 2014で「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、大きな口コミを起こしたキャンペーンを表彰する世界的な口コミアワード「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。その他、受賞歴多数。実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」審査員など。著書に『戦略PRの本質~実践のための5つの視点~』。