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コラム

四苦ハック人生 in Sanfrancisco

野球少年が絵画に出会い、ピクサーのアートディレクターに。そして独立。アカデミー賞ノミネート監督、堤大介さんに聞く。

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海外へ出たいと思っている人へのアドバイス

川島:僕自身もこうしてアメリカで活動しているため、海外へ出ることに興味がある方からの相談を受けることがあります。堤さんはそういった相談を受けた際に、どのようなアドバイスをされていますか?

堤:僕はとにかく来ちゃったらどうかなと思うんです。いろいろと来れない事情はあると思う。ただ来たいって思うのだったら、じゃあそのために何ができるのかってところから考えてみる。よくあるのが、例えば「英語ができないから、その前にまず英語の準備をする」。そういう「準備」をするのって日本人の良いところでもあるけど、悪いところでもあると思うんです。事前に準備をしなくてはいけないっていうカルチャーが、どうしても逃げ腰になってしまうところをつくっている。もちろん準備をするのに越したことはないです。でもそれで、「準備ができなければやらない」となってしまうのが一番もったいないと思います。だからとりあえず来ちゃう。来て「苦労」をする。「アリとキリギリス」の話のように、まず準備をして後で楽をしよう、そういう「アリ」の行為が美徳とされるところがある。ただ、準備をして後で楽をしようというのが、果たしていいことなのかって僕は疑問に思うんです。

外国語を学ぶことに関しても、例えば英語を勉強することの本当の価値は、ただ2ヶ国語を喋れるようになるためだけではないと思います。むしろ外国語を勉強するという「苦労」にこそ、その価値があると思っています。僕も川島さんも、英語で苦労をした今があるからこそ、例えば英語がしゃべれない人に対しての思いやりがより持てるようになった。

もっと言ってしまえば、自分が見えていなかった価値感に対してオープンになれるっていう、本当に根本のところに大きく関わってくると思うんです。それは言語だけでなく、文化もそうです。違う文化で暮らすということは、その文化に慣れるということだけでなく、それまでの常識とは全く違う世界を経験することで、それを通じて人としていろいろなところで成長していくと思うんです。最初は本当にそこだけでいい。そこからスタートして、例えば言葉であったりといった実用的な部分を埋めていけばいい。

大事なのは、そこで必ず苦労が生まれることなんです。絶対に楽ではないから。でもその方が成長があって、そこの楽しみを見出せる人が増えれば、もっと海外に来やすい環境になるのではと思います。

川島:きっとそれは海外ということだけではないですよね。人生の中で新しいことにチャレンジをする。またそういうチャレンジがしやすい環境をつくっていく。

堤:そうですね。日本国内であっても同じです。例えば「まだ東京に行けない」、「まだ仕事を変えれない」など、環境を変えるいろいろな場面に通じることです。アメリカにいたらいいとか日本にいたらいいとか、そういうことではないと思います。

川島:自分の居心地の良い環境、コンフォタブル・ゾーンからいかに外に出て、苦労をして学ぶ。人生において、どうやって成長をしていくかという本質の部分だと思います。

最新作「ムーム」の粘土モデル。

アートディレクター、監督という立場にありながら、常に謙虚な振る舞い。そしてどんな時でもまわりと一緒に学んでいこうとする、配慮がありつつも貪欲な姿勢。

「きっと」、「ぼくはそう思う」、「そうかもしれない」

力強い意志がありながら、かつ低姿勢を崩さない、そういった一言一言に堤さんの人柄が現れている印象を受けました。

堤さんは周りを巻き込むのがすごく上手。いやむしろ「巻き込まれたい」と思わせるような、人を惹きつけるリーダーとしての魅力が堤さんの真骨頂ではないでしょうか。またそうした堤さんの哲学は、きっとアニメーションや映画に限らず、業界の壁を超えてどんな世界にでも通じる考えではないかと強く感じました。

さてさて日本では卒業、入学シーズン。いろいろと新しい環境がはじまるこの季節、それを億劫ととるか、成長の場ととるか。堤さんのそんなメッセージが聞こえてきそうです。皆さんの新年度がより実りあるものでありますように。


今回お話を伺った堤さん率いるトンコハウスの展覧会「トンコハウス展、 ダム・キーパーの旅」が3月25日より銀座のG8ギャラリーにて開催されます。また展示会に合わせて「ダム・キーパー」のBluRayとダム・キーパーのドキュメント本「アート・オブ・ダム・キーパー」が販売されます。

堤さんとロバートさん両監督も合わせて来日予定。サイン会などのイベントをたくさん予定されているとのこと。詳しくは堤さんのFacebookもしくはトンコハウスのTwitterからご覧ください。

世界が注目するトンコハウスが作る世界を垣間見るチャンス。入場無料とのことですので是非!(あー僕も見たい!)