広告業界のイチローが見ている先は【後編】

シリコンバレーでアートディレクターとして働く日本人によるコラム、「四苦ハック人生」番外編。広告業界のイチローと呼ばれるレイ・イナモトさんのインタビュー後編です。(前編はこちら

見えないものをデザインする。

「クリエイティブディレクションとは精確でいて、かつインスピレーションを呼び起こすものであり、フィードバックとは具体的でいて、かつ励まされるものであるべきだ。」

川島:レイさんは僕がAKQAにいた頃から、インスピレーションになるようなビジョンを、明確で簡潔なキーワードを掲げてディレクションを行っていました。例えば今でも覚えているのがAudi USAでR8という高級スポーツカーのキャンペーンアイデアを考えるときには、「3つのS。Style (スタイル), Speed (スピード), Substance (本質)」を掲げていました。

最近思っている、大事にしているキーワードって何かありますか?

イナモト:会社の理念にも掲げていますが「Emotion, Connection, Simplicity」。ブランドにしろ、ひとりひとりのユーザーにしろ、この3つを届けることが大事だと思っています。そのためにデザイン、データー、テクノロジーを軸にして、そのインターセクションから新しいもの生み出す、それが会社の目的です。なので常にプロセスでこの3つがどう関わっているのかを気にしています。

もう一つは「見えないもののデザイン」。今までは見えることをデザインするのがデザイナーの仕事だと思われていたけど、これからは見えないこともデザインしていかないといけないと意識しています。

川島:それは例えばユーザー体験のことですか?

イナモト:そうですね。例えばAmazonのEchoやGoogle Home。視覚ではなく声に基づくインタラクションやそのユーザー体験。事例としては小さいかもしれないけど、例えばChat Bot。テキストとしては目に見えるかもしれないけど、視覚化されていない部分の体験をデザインしていく。20世紀はデザイナーは見えるものをデザインしていたけれど、21世紀は見えない部分もデザインしなければならない、強くそう思います。川島君はどう思う?

川島:僕も強く同感です。UIデザインは一昔前まではボタンやスタイルを作り込む仕事が主でした。そこで違いを出すのがデザイナーの仕事みたいな。でもFacebookにしろInstagramにしろ、ものすごく多くのユーザーがいるアプリでは、プラットフォームごとにUIデザインも平気で変えています。むしろ慣れているプラットフォームに基づいた、例えばiOSではiOS風の、AndroidではMaterial Designのようにプラットフォームに準拠したものにしている。ユーザーが慣れているものが一番良いUIデザインであって、そこで変に手を加えることはことはあえてしない。もちろんかっこいいアニメーションやデザインは話題を産むし、最初にユーザーを獲得するには必要かもしれませんが、そういった見た目のデザインに固執し続けるよりは、365日使ってもらえるための体験をデザインする方が重要だと思います。

左がiOS、右がAndroid。全体のトーンは同じだがメニューなどの配置をプラットフォームごとに変えている。デザイナーの立場から言うと、数億人が使うアプリでメニューの位置を変えるのはすごく勇気がいる決断です。

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川島 高(アートディレクター)
川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san

川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

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