避けられない話題、英語について
高:海外に出ることに興味がある日本人はたくさんいますが、やはり言葉の壁で尻込みをしてしまうことが多いようです。僕もそうですが、優志さんも大人になってから海外に出てこられました。この言葉の壁について伺えますか?
優志:人間のコミュニケーションって言葉だけじゃない。弁が立つから信頼されるわけではないですよね。むしろプロフェッショナルな何かを持っている人は、言葉に依存しないコミュニケーションが取れると思うんです。自分の技術を通して語り合う。エンジニアだったらコード、デザイナーだったらデザイン、そうやって言葉とは違う言語を使って語り合う方が、場合よっては逆に深いコミュニケーションが取れる。英語ができないからといって、アメリカに来て誰ともコミュニケーションが取れないということはないと思います。
とは言っても、やっぱり言葉って大事です。職人として一人でやるならいいかもしれないけど、チームとしてやっていくなら言葉は避けて通れない。プレゼンテーションで不特定多数の人にきちんとメッセージを伝える、チームをまとめる、そういった時に言葉はすごく重要です。
高:僕は言葉には2つの壁があると思います。最初の壁は最低限のコミュニケーションを取るための言語能力。いわゆる日常会話のための語学力。海外に出たらすぐにぶつかる壁です。この壁を越えてしばらくすると第2の壁にぶつかります。それは言葉を武器として使うための壁。キャリアを積んでいくに従って、例えば管理職に就けばチームをマネージメントする能力が求められます。そこでは言葉を巧みに扱う能力が必要です。
優志:上のキャリアに就きたいのなら、またはコミュニケーションを売りものにする仕事をしたいのならば、やはり言葉は重要だし勉強しないといけないよね。その壁は努力で乗り越えないといけない。それもものすごい大変な努力が必要です。
一方で、それでもやっぱり「何を語るか」の方が大事だと思う。すごく長いメールを書く人がいるけど、それってなかなか伝わらないですよね。みんな読まないから。一方で短いメールしか書かない人もいる。たった2行とか。ただそっちの方が伝わったりする、内容が的確だから。すごくシンプルな英語でも、よく考えられた上での言葉だったらコミュニケーションをうまく出来るのだと思います。
僕が実践していることでいうと、とにかくネイティブの英語を真似ること。発音であろうが文章であろうが、どういう表現をしているのかをよく見る。そして自分で書く。例えば仕事場だったら誰がどういう状況でどういう言葉を発しているのかを見て、それを盗んでいく。でも言語学習ってもともとそういうものですよね。小さな子供が言葉を覚えるときに理論からは入らない。そうじゃなくて周りの大人が言っていることを真似して話す。そうして何度も何度も真似しているうちに体得していく。文法から入って論理的にすべてを学ぼうとしても、コンピュータが話すような言葉にはなるかもしれない。けど血の通った言葉にするためには、やっぱり真似るってことを臆面もなくやっていくというのが必要なんじゃないかと思います。アメリカにいるから自然と英語が上手くなるわけではないですよね。
高:真似るのは成長するために一番の手段です。言葉にしろデザインにしろ、どんなことにも共通していると思います。真似て、そこからいいところを吸収して、それを自分のスキルとしてものにしていく。自分の子供を見ていても、人間ってそうやって成長しているんだなって思います。
優志:漫画とかもそうですよね。有名になった漫画家も、最初は他の漫画を真似ているうちに、いつの間にかそこから自分の味が出てきて、違いが生まれてくる。
高:“Good Artists Copy; Great Artists Steal.ピカソの名言です。今世の中では「パクり」という言葉が先行してしまい、少しでも似たような表現を問答無用で悪とみなすような、ちょっと窮屈な状況に陥っています。だからといって影響を受けることを一切遮断するのは短絡的な発想だと思います。学ぶためには真似ることは絶対に大事ですよね。要素を掛け合わせて、そしてそこから新しい価値観を生み出すことはクリエイティブです。すべてをゼロから産むことだけがクリエイティブなわけではありません。
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