開発と実業を両輪でうまく回すための考え方
西牟田:お二人の共通点は、ラボ的な機能や開発部門を組織の中に持って、その成果を実業にフィードバックしながら領域を広げていることだと思います。その仕組みをうまくまわしていくために、必要なことは何ですか。
豊田:僕はコロンビア大学を出た後に、ニューヨークの設計事務所SHoPに入ったのですが、彼らは投資にすごくオープンです。新しいソフトが出たら、3カ月ぐらいアウトプットは二の次でひたすら数名の社員に使わせる。その結果、いいソフトだとわかれば、事務所ごと乗り換える。そういうことをどんどんやっていました。若手数人とインターンでぎりぎり回しているような日本の建築事務所では、なかなかできない取り組みです。一見無駄で効率の悪いことが、新しい環境を広げていくのです。
noizは東京と台北を合わせると約20人ですが、日本人は3分の1くらいで、できるだけいろいろな国籍、専門の人を入れるようにしています。いろんな情報が入って来た方が僕もみんなも面白いし、それによって会社にお金以上の価値を感じてくれるようになるのではと思うからです。また、3割ぐらいの時間で何らかの実験やリサーチをするというバランスにしています。建築や設計はそういう余剰を作るのが難しい分野なので、建築ではないところに手を出すことで余剰を作るように意識しています。
齋藤:ライゾマティクスにはRhizomatiks Architectureの他にも、「Rhizomatiks Research」、「Rhizomatiks Design」など三つの部門があり、それぞれ自分たちでR&Dを進めています。特にResearchチームはそれに特化しています。常日頃から投資はしているのですが、僕は「せっかくやるのなら、もっと投資していいものを作れ」とつい言ってしまうんです。以前は中長期的に見て回収できればいいと思っていましたが、最近では、研究開発の時点からちゃんと事業計画を持ってペイできるプロジェクトを立ち上げることが大事だと思うようになりました。
西牟田:お題を受けてからどのテクノロジーが使えそうか考えて提案するのでは、スピード感が追い付かなくなっていますよね。お二人のように、作りながら開発して、それが売り物になっていくというのが理想的と感じます。
齋藤:デジタルの進化とともにトライ&エラーのサイクルは早まっています。ガンガン回してサイクルを早くして、その中から使えそうなものをドーンと外に出す、というクセを徹底的につけたいと思っています。開発している中には、一般受けしなそうなテクノロジーもたくさんありますが、商品開発に使う、美術館で使う、自社の興業で使うなど、とにかくどんどん使うようにしています。作り続けないと、新しいものは出てこないと思うからです。
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齋藤精一(さいとう・せいいち)
Creative Director / Technical Director : Rhizomatiks
1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエーティブとして活動し、03年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエーティブとして活躍後、06年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。09~14年、国内外の広告賞にて多数受賞。現在、ライゾマティクス代表取締役、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。13年D&AD Digital Design部門審査員、14年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。15年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト15にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞15、16審査員。
豊田啓介(とよだ・けいすけ)
建築家。
千葉市出身。東京大学工学部建築学科卒業。1996~2000年安藤忠雄建築研究所。01年コロンビア大学建築学部修士課程修了。02~06年SHoP Architects(New York)。07年より東京と台北をベースに、蔡佳萱と共同でnoizを主宰。現在、台湾国立交通大学建築研究所助理教授、東京藝術大学非常勤講師、東京大学デジタルデザインスタジオ講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師。
西牟田悠(にしむた・ゆう)
電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー。
2009年4月電通入社。入社以来、イベント・スペースデザイン領域で、国内外大規模展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップなどのプランニング・プロデュース業務に携わる。イベント・スペース領域を核としながらも、さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦中。
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